芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

二匹の怪物

 この界隈に怪物が二匹住んでいるという噂を耳にした。わざわざ「界隈」という言葉を使ってみたが、なんのことはない、我が家の近所の公園にもたまには出没するらしい。  私はこの噂には懐疑的な立場だった。実際にこの眼で目撃もしな

涙に

花は消えていた すっかり   九年たって わたしはそれに気づいた   ただ 花びらだけは少し残っていた この涙に

芦屋浜ビーチクラブ その5

 きょうも朝、芦屋浜へ出た。まだまだ暑いのは暑いが、時折やって来るそよ風にもう秋の気配を覚える。  八時二分ごろ、浜に着いた。既にみんな作業をしている。台風七号の漂着物が残っていて、おそらくきょうでそのゴミは除去できるの

亀と遊ぶ

 朝、庭掃除が終わり、花壇と鉢に水やりをした。八時を少し過ぎてしまった。ただ、今日は土曜日なので仕事はお休み。ちょうど一週間ぶりに亀の池の掃除を始めた。  やはり、まだ暑い。どんどん汗が流れてくる。額からもポタポタしてく

成長

 女友達にすすめられて買ったゴキブリ専用の殺虫剤は確かに強力だった。何カ所か出そうなところに置いておくだけ。直径四センチくらいの白い円盤形の代物。彼女は、夏の間、生きているのは一匹も見かけなくなる、そう断言した。  まだ

津田真理子詩集「森のフクロウーかあさんへ」を読む。

 この詩集は、母とその娘が愛しあったまま死別した娘の思いを出来る限りそのまま語り出した、余分な飾りを落とした純化された言葉だった。    「森のフクロウーかあさんへ」 津田真理子著 澪標 2021年8月20日発

地震

 新聞でもネットでもマスコミは一切報道しなかったが、地震があったのはもう隠しようもなかった。  二階にあがってみると、狭い廊下を挟んで、南側の部屋には異常はなかった。だが北側は違った。部屋全体が明らかに北に向かってずいぶ

芦屋浜ビーチクラブ その4

 夕方雨が降る予想なので、午後五時ごろ家を出た。芦屋浜へ向かった。きょうは昼間、芦屋で二ヶ月に一回開かれている詩の会に出席したので、朝の八時から九時まで活動している芦屋浜ビーチクラブには参加出来なかった。だから、どうして

チラチラ

チラチラしている 過去に出会った さまざまな女の断片が 鼻 口唇 目元から上だけの頭 チラチラして 人差指 ふくらはぎ 汗ばんだ襟首 少し汚れた足の裏 震える耳たぶ   こうして わたしたちはさまざまな世界に住

亀とたわむれて

 昨夜、友達とJR芦屋付近の飲み屋を梯子した。帰宅したのは十一時。パソコンのメールを見て、ベッドに横たわった。  寝坊してしまった。もう五時を回っていた。いつものように長男と私の朝ご飯を作る。ダイニングの東窓の棚に置かれ

送り火

 夕方、また芦屋浜から総合公園を歩いた。西陽が強く射していた。昼間よりおおぜいの人が浜で遊んでいる。十代、二十代の若い人が多い。私のような年配の人は見かけなかった。夕方といってもまだとても暑く、外出は控えているのだろう。

送り火まで

 きょうのお昼、十二時過ぎに芦屋浜へ出た。きのうの台風で海は濁り、浜辺に流木などが流れついていた。しかし、さほどの高潮ではなかったのだろう、大きな流木は見あたらなかった。    八月十六日の真昼時  芦屋浜は

笑顔

 台風七号の去った朝、落ち葉だらけの庭掃除は一仕事だった。九年前まではワイフとふたりでおしゃべりしながらやっていたので、お遊び程度の作業だった。今は違う。箒で落ち葉を掃きながら、腰がかったるくなると、まるで苦行僧のまなざ

外は静か

 きのう、潮岬に上陸した台風七号は私の住んでいる芦屋よりも西、大阪湾を北西に移動して昼過ぎに明石に再上陸した。足の遅い台風だった。時速十五キロの自転車くらいの速度でそのままゆっくり日本海へ向かって北上、兵庫県を縦断。その

八月十五日に台風が来た

 午前三時ごろ目覚めた。気になっていた鉢植えのアーモンドを玄関の中へ入れた。  台風七号の影響だろう、外が騒がしい。ゴウゴウと唸ったり、バタバタと叩いたり、ザワザワゆすったりしている。昨夜から一階のシャッターはすべて降ろ

無言のまま、立ち去る。

あなたに何を話そうか 迷っていた   ほんとうは 申し訳ない気持ちでいっぱいだった   こんなにもたくさん お話したいことがあったのに   立ちすくんでしまった これがわたしのはだかの心だ

芦屋浜ビーチクラブ その3

 日曜日。きょうも、朝八時前に芦屋浜へ出た。クラブの仲間は誰もいない。東側の堤防の階段になった通路に座って、真っ青な空の下、ボンヤリ、芦屋浜を眺めていた。  ボツボツ二、三人の仲間が集まり始めたが、このクラブで知り合って

お盆

もっとも大きな謎 いつまでたってもわからない   なぜ どうして   あなたと愛しあってしまったのか 誰か   教えてくれないか どうしてあなただけを   謎 愛の秘密を 教えて

亀と共に生きる時間

 きのうの朝は、我が家の庭掃除などの他に、町内にある二カ所の共用の花壇の水撒きをした。亀の池の掃除も前回からちょうど一週間がたっているので、気になって仕方がない。まあ、仕事から帰って昼過ぎにやればいい、そう自分を納得させ

そうなんだ おかしいね

だから これだけは あなたに伝えておきたかったんだ   最初はね もちろん ひとりぼっちと ひとりぼっちだったけど 愛しあって いつのまにか ふたりぼっちになったりして   憶えてる? そうなんだ お

それはざらざらしている

他でもない 最近 わかったことがある まあ 聞いてくれたまえ さあさ もっとこちらへ   あれは手品さ 誰も信じないと思うが…… だったら 種が知りたいだろう 耳を出してごらん 小声でささやくから  

特権

えっちゃんを喪ったこの悲しみは ボクの特権だと思う 愛しあったものにあたえられた 特権だと思う   ボクがこの世を去れば この特権も消える     *写真は、きょうの夕方、芦屋総合公園西端の

芦屋浜ビーチクラブ その2

 きょうもまた、朝の八時に間に合うように真夏の青空の下、芦屋浜へ急いだ。早く来ている人たちは、もう芦屋浜のゴミ拾いの作業を始めている。  リーダーが作業している浜の方へ行って、私は朝の挨拶をした。昨夜飲み会があったそうで

カンタとユウタ

 旅行に行くので預かって欲しい、ということで、友達のインコが四羽、七月の二十八日から我が家に住んでいます。おそらく八月の七日頃まで。  四羽のうち二羽を写真に撮りました。手前がカンタ、後方のトマリギにとまっているのがユウ

亀、そして秘密の鍵。

 けさは近所の共用の花壇の水やりをしたため、出勤までの朝は忙しくしていた。だから今日の午後一時頃、炎天下、覚悟を決めて、亀の池を掃除した。週に一度くらいは掃除をして水替えをし、池の中で組み立てられた五個のレンガの島の汚れ

南かもしれない

こちらが西だとあなたはいうけれど 太陽も星もない なんの目印もない 灰色の草でぼうぼうと覆われた荒れ地に立ってみれば おのずから笑みを落として わたしはあの方角を指さしたまま こう語った   あなたは西だという