芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

成長

 女友達にすすめられて買ったゴキブリ専用の殺虫剤は確かに強力だった。何カ所か出そうなところに置いておくだけ。直径四センチくらいの白い円盤形の代物。彼女は、夏の間、生きているのは一匹も見かけなくなる、そう断言した。

 まだ七月の初めごろ。洗濯物を入れた籠はいつも洗濯機の上に置いている。朝、庭掃除を終えてから、洗濯を始めた。洗濯機の蓋を開け、籠から洗濯ものを入れていく。最後、籠の底に何か黒いものが転がっている。よく見れば、死んだゴキブリ。まったく身動きをしない大きな成虫。

 七月の終わり。我が家の洗面台の左端に立っている棚。幅四十センチ、高さは私の背丈くらいの百七十センチ余り。開口部の前面を上から一枚のカーテンで隠している。家の掃除の際、この棚の下段の奥にゴキブリが一匹死んでいるのを見つけた。成虫。完全に死んでいる。

 八月に入ってから、浴室の洗顔用の石鹸がなくなったので、洗面台の下にある棚の両開きの扉を開けた。右扉の棚の手前側に五匹、ゴキブリが死んでいる。それも、死後、相当の日にちがたっているのだろう、カサカサ。ティッシュペーパーでつまむと、クシャッと体が分解する。

 不思議な現象もあった。七月の終わりごろ、私の寝室の畳の黒いへりの上でまだ成虫になりきらない赤味を帯びた一匹が死んでいた。その場所に、八月の中旬、また同じような赤味を帯びた一匹を見つけたが、まだ完全に死んではいなかった。長い触角をかすかにうごめかしている。ティュシュペーパーでつまみあげると、私の眼前で、スーとスローモーション画像を見ているように、ドンドン大きくなって成長し、五十センチ以上巨大になってゴソゴソし出したところまではハッキリ記憶している。