芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

北野辰一の「戦後思想の修辞学」

 ボクはわけあって今年の一月から所謂「原爆文学」を中心の読書生活をしているが、ごく最近のこと、井上光晴の「地の群れ」と小田実の「HIROSHIMA」の読書感想文めいたものを「芦屋芸術」のブログに書き終わった時、突然、この

小田実の「HIROSHIMA」

 この本は、所謂「原爆文学」といわれる作品の中では比較的新しく、ジョウという牧場で働いていたアメリカの男が、第二次世界大戦で召集され米軍の空軍に入隊、ヨーロッパ戦線でヒトラーがバンザイした後、日本にトドメを刺すべく爆撃機

大庭みな子の「浦島草」

 ひとくちに欲望といっても、食欲、性欲、金銭欲、権力欲、知識欲、名誉欲、快適生活欲、健康長寿欲などいっぱいあって、また、物欲といっても人間って各自さまざまなものをあれこれ物色するので、欲望とは何かを簡単に誰にでもわかるよ

星と海に助けられた。

 また、胸苦しくなって、わけもなくいかりがこみあげて来て、夜の八時頃、芦屋浜に出た。  うろこ状の雲がたくさん浮いていて、余り期待はしていなかったが、それでも雲の間から、南西の空に木星、その右下にさそり座の赤いアンタレス

大江健三郎の「ヒロシマ・ノート」

 ひょっとして人は、あるのっぴきならない出来事によって、自分の本来の姿を発見するのかも知れない。そして、その本来の姿を心の奥に大切におさめて、ふたたび生活を始めるのかも知れない。    「ヒロシマ・ノート」 大

中秋の名月に、会えなかった。

 きのう、九月十三日、中秋の名月の日は、未明から雨が降っていた。朝方にはその雨も絶え、一日中、どんよりしている。だが、それでも、夜の七時前、ボクはそそくさと芦屋浜へ出た。コンクリートの階段になっている堤防に座り、空を見上

小林誠の「古事記解読」

 おもしろい本だった。読んで、よかった、そう思った。この本の研究対象としている範囲は、古事記の中でも、まず「天地初發之時」から既に鉄器の文化圏であった神倭伊波礼毘古命(カミヤマトイワレビコノミコト)が南九州から東征して銅

恋の終わり

 芦屋浜まで行って、いま、帰ってきました。七時過ぎに家を出て、帰ってきたら、もう八時を過ぎていました。  誰もいない浜では、南の空で上弦の月と木星が寄りそって、その右斜め下方にさそり座の赤いアンタレスが輝いていました。ず

九月、玄関先の冬の闇。

 午前四時前、雲の多い日が続いて、急に驟雨が走っていた空が、すっかり晴れていて、ダイニングのベランダの軒下からシリウスが見えた。眼鏡をかけ、門灯を消し、玄関から闇へ出た。  オリオン! そして、シリウス、プロキオン、ベテ