芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

小林誠の「古事記解読」

 おもしろい本だった。読んで、よかった、そう思った。この本の研究対象としている範囲は、古事記の中でも、まず「天地初發之時」から既に鉄器の文化圏であった神倭伊波礼毘古命(カミヤマトイワレビコノミコト)が南九州から東征して銅鐸の文化圏である奈良に先住する人々を殺害・弾圧して権力を掌握、神武天皇として天皇制の基礎を築いたところで終わっている。

 

 「古事記解読」 小林誠著 幻冬舎 2018年6月26日 第1刷

 

 著者は「古事記」を日本で最初に書かれた歴史書として解読している。つまり、古事記の中でも特に神話として語られているところを非神話化し、中国の文献に書かれた倭国や「出雲国風土記」などの文献、日本の研究者によるさまざまな学説、最新の考古学の成果などと古事記に表現された神話を向き合わせ精密に解析して、天皇制という世界に類をみない所謂「現人神」という絶対者を中心にした権力機構が成立するまでの前段の歴史を、わかりやすく、また、ていねいに、描いている。

 ボクのように日本古典音痴の人間でも、おもしろく読めた。もちろん、文字として残された史料のない弥生時代から古墳時代へ移行してゆく時代の解読であるため、大半は推論で構成されている。しかし、著者の明晰な論理によって実証してゆく作業を追っていけば、確かに推論ではあるが、これは極めて蓋然性が高い古事記の解読書ではないか、そう思うのはボクひとりではあるまい。