芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

初恋

でもね あたし そうじゃなかったの 家がイヤで 早く出たくって 結婚した それしかなかった あたしが 家から自由になるためには わかってください あの男と結婚するしかなかった 十年前に亡くなったあの男  あたし もう七十

だったら おやすみ

 指を見つめていた、親指から小指まで、両手の。さらに、足指まで、両足の。どうしてこんなにたくさん指ってあるのかしら。リカはふとそんな思いにふけってしまった。たそがれ。畳を夕日が染めていた。足を見つめていた目をふともたげる

亀、白いキキョウが咲き初めた。

 昨夜は芦屋の岩園にある小料理屋に四人で落ち合って、そのあとに訪れたスナックで二人の新しい友達が出来、そのまま六人連れで次のスナックへ繰り出した。そのうえ、ここでもまた一人、新しい友達が。  かくして帰宅したのは、きょう

ほんとのリカ

「ヤミオ。たまには、お食事、どう?」  久しぶりにリカからラインが来た。  闇男はいつものセカンドバッグを手に、玄関を出た。    皿が出ていた。テーブルの上だろうか。置かれている場所があいまいだった。ボンヤリ

悪魔の教室

 昨夜、入学式がありました。厚化粧した五十代の女性が鞭を振り上げながら叫んでいました。紫色のルージュで化粧したくちびるをつるっと突き出して。  ここに入学すれば、一生卒業できません。生涯学習。そのかわり、紅、紫、緑、漆黒

詩誌「現代詩神戸」289号を読む。

 永井ますみさんから詩誌が送られてきた。    「現代詩神戸」289号 編集/今猿人・神仙寺妙・永井ますみ 2025年6月10日発行    十八人の詩人が二十二篇の詩、エッセイが三篇、編集者三名の書い

芦屋ビーチクラブ その71

 先週の日曜日の朝、芦屋ビーチクラブで清掃活動をしながら、「今日から梅雨明けだな」、そんな感慨を抱きながら雑草を抜き続けていた。  ところがどうだろう。一週間後の本日、日曜日の朝。私は雑草を抜きながらこんな感慨にふけるの

亀、我が家へ帰る。

 この二週間、ほとんど夜の飲み歩きはしていない。夜遊んだのは二回だけ。後は自宅謹慎。多少の酒を飲みながら。  四十七年間続けている仕事と芦屋芸術関連や別冊關學文藝第七十一号に寄稿する作品作りなど、多忙だった。別冊關學文藝

後藤光治個人詩誌「アビラ」22号を読む。

 後藤光治さんからこんな詩誌が送られてきた。    「アビラ22号」(抒情詩篇) 後藤光治著 文彩堂出版 2025年6月10日発行    今号の「アビラ」は従来と様子が違った。著者のこれまでに発表した

噓じゃない

追いつめないで そんなこと言って あたし ちょっとしたこと しただけよ だから イヤ そんな目をして 追いつめないで そうよ そうして 欲しいの もっと お願いしとく もう しないから けっして 金輪際 ね けっしてよ 

詩誌「詩人の輪通信60」を読む。

 こんな詩誌を読んだ。    「詩人の輪通信60」 九条の会詩人の輪事務局・編集部 2025年6月1日発行    歴史や社会の在り方に批判的なまなざし向けて綴られた言葉を中心に構成された詩誌だった。批

詩誌「カルバート11号」を読む。

 山中従子さんから詩誌が送られてきた。    「カルバート11号」 発行/編集 樋口武二 2025年6月3日発行    私は基本的には送っていただいた本は最初から最後まで読む癖がある。悪癖かもしれない

新生活

 確かにくすぶっていた。何がくすぶっているのかと問われても、闇男にはもう返答するすべもなかった。既にすべてがそぎ落とされていた。これってもはや身体とは言えない。以前、熟知していると思っていたニンゲンではなかった。彼の記憶

「芦屋芸術二十三号」が出来ました!

 「芦屋芸術二十三号」が出来ました。発行日は7月1日です。かなり早く出来ました。これは私の性格。仕事であれ家事であれ、何でも次から次へとやってしまう、物事は出来るだけ早く片付けてしまう、昔からの性癖。それはさておき、本号

芦屋ビーチクラブ その70

 連日雨が降っていた。きょうは中止になるかどうか、ネットで天気予報を調べてみた。芦屋は朝の七時か八時あたりから雨があがり曇りになっている。念のため準備をした。準備といっても、制服のTシャツを着て、軍手をポケットに入れるだ

亀、そしてキキョウが

 昨夜も遅くまで飲み歩いた。帰宅したのはきょうの未明、午前二時半過ぎ。長い間眠っていた。九時半近くになってやっと目覚めた。それでもいつもの手順通り家事を始める。  朝食づくり、花瓶の水替え、庭掃除、カラス夫婦スズメたちに

いったい 何が言いたいの?

だから もうワインなんて飲まないでください いいえ 決して そんなこと そんなこと ありません   じゃあ だったら どうなの ちょっと いいわけがましいけど   わかって 欲しい だって これを見て

詩誌「リヴィエール200・記念号」を読む。

 永井ますみさんから詩誌が送られてきた。    「リヴィエール200・記念号」 発行所/正岡洋夫 2025年5月15日発行    今号は200号記念として同人だけではなく、これまでに関係してきた人々も

無色の空地

 もうたくさんだ。こんなはずではなかった。これまでも大切なものが消えていったが、インク壜でさえどこかに行ってしまったのだろう、机上から消えていた。やむを得ず彼はつけペンのペン先をしょうゆ皿のしょうゆにつけて、いま、この文

カルデロンの「驚異の魔術師」を読む。

 何故か戯曲が読みたくなった。こんな作品を選んだ。    「驚異の魔術師 ほか一篇」 カルデロン・デ・ラ・バルカ著 佐竹謙一訳 平凡社 1997年4月15日初版第1刷    著者は十七世紀スペインのバ

芦屋ビーチクラブ その69

 昨夜。土曜日。スナックで飲みながら、あす、どうしようか、自問自答していた。結局、早く帰宅した。十一時前に。  そしてきょう、日曜日。午前八時前。芦屋浜へ向かった。自問自答の末、これが私の答えだった。つまり、宿題の答えは

亀、そしてサツキの終わりが近づいた。

 木曜日は夜遅くまで友達と飲み、帰宅したのは午前二時半。それでも七時半ごろ起きて家事をこなし、出社。どうしてもやらなければならない仕事があったので。だから金曜日は夜遊びを自粛。ずっと続いていた体調不良が回復したばかりだか

まぶたの裏側では

ねえ そっとしておいて その手をおろして いまは ダメなの 別れ話ね そうじゃない 真顔になって あたし 見つめて いやよ そんなうまいこと言って   ねえねえ 聞いて あなたは まだ あたしのこと 好きだって

結末不明

 最近何かがおかしいと彼は思うようになっていた。特段その何かが、いったい何であるか、執拗に追及する意志などさらさらないのではあるが。だから、とりあえず、何か、だけつぶやいて、それ以上の中身は棚上げにしていた。  それでも

死の音

 にょきにょき生えてきた。そんな話を昔子宮ガン末期の祖母から聞いた。あの頃は、まだ若かった。おばあちゃん、馬鹿な、鼻から信じなかった。いや、頭から否定した。祖母は十日後にこの世を去った。  しかしそれは事実だった。いやは

芦屋ビーチクラブ その68

 芦屋浜へ急いだ。ちょうど八時になっている。きょうは日曜日。浜の雑草を抜きゃなきゃ。浜に着いたのは八時七分。まあ、上出来だと思う、この体調を考えれば。  きのうは午前中どうしてもやらなければならない家事と亀の池の掃除を済

ごとく

おそらく 死が近づいているのだろう   彼女が 出て来る ひんぱんに   ちらちらしたり くるくるしたり 回るように   出て来る まるで それは 白骨体の舞踏会のごとく   そん