芦屋芸術|芸術誌・現代詩・小説

何が書く?

夜が更けて 目を落とすと Mは愕然とした   腕まではあるのだが 手首から先がなかった それも 両手とも 彼等は帰って来るのだろうか   それにしても ちょっと不思議ではないか 手首から先がなくって

命が近づいている

使わなくなった食器がいっぱい   流し台から あなたの手が 消えて 十二年 時には 食器棚を見つめて   あなたの手を 感じます

表現の限界

残念ながら わたしはこんなに深い悲しみに 毎日 苛まれても それを表現することは出来ない   この深い愛も

亀と美意識、そして愛情

 昨夜はある女友達と阪神芦屋駅付近のイタリアレストランで食事。九時ごろ、歩いて一分余りか、二人でいつものスナックへ。  金曜日の夜。顔なじみの客でにぎわっている。レストランで赤ワインのボトル一本、生ビール何杯も彼女と飲ん

眠り姫

今からでも 遅くないと思う もどってきたら もう一度 愛しあえると思う   そう思わないか 姫

瀬戸際まで

 朝食後、流し台で食器類を洗っていると、スマホの着信音が鳴っていた。水を止め、いつも置いているダイニングテーブルまでわざわざ小走りで確認したが、着信した形跡はなかった。  ふたたび洗い物をし始めたが、すぐに着信音が聞こえ

後藤光治個人詩誌「アビラ」26号を読む。

 後藤光治さんから詩誌が送られてきた。    詩誌「アビラ」26号 編集発行/後藤光治  2026年6月1日発行    この詩誌は巻頭に「ロラン語録」を置き、詩作品六篇、次に「ロマン・ロラン断章(二十

契約書を食べる

 きょうもリカは不在だった。  出されたものは、赤茶けた漆塗りのお椀ひとつ。お粥といっても、もう乳白色の汁状で、ご飯の面影は消えていた。すべてのご飯粒が溶解している。きょうの課題は、そんな汁状態の中から、文字を探さなけれ

文芸誌「日々漫筆」創刊号を読む。

 大久保優さんからこんな同人誌が送られてきた。    「日々漫筆」創刊号 編集人/浅田厚美 発行元/「日々漫筆の会」 表紙・挿絵/本馬彩花 2026年5月15日発行    個人的なお話になってしまうが

芦屋ビーチクラブ その113

 昨夜は疲れて八時過ぎに就寝。だが目覚めたのは四時半ごろ。何と、九時間余りベッドに横たわっていた。ぐったり。  確かに疲れていた。先週は火曜と水曜、そして金曜日、友達と夜を遊んだ。とりわけ水曜と金曜は夜遅くまで遊んで、帰

亀と女心と

 昨夜は、芦屋のいつものスナックで会った顔なじみと二人で八時過ぎだったか、タクシーで走り、西宮のスナックを二軒回った。  最後に座ったカウンター席に長居してしまった。酔いどれのクダラン話をくどくど語り合いながら。  もち

やはり、数えることが出来なかった。

 空を飛ぶ夢を見る人はこの世ではたくさんいる、金曜日の夜、Mはそんな話を耳にした。ついさっき、別れたけど。例のスナックでウイスキーのグラスを傾けながらリカちゃんから。    ベッドに横になってもなかなか寝付けず

詩誌「リヴィエール」206を読む。

 永井ますみさんから詩誌が送られてきた。   「リヴィエール」206 発行所/正岡洋夫 2026年5月15日発行    この詩誌は十四人の作者がそれぞれ一篇ずつの詩を発表し、エッセイは六篇、また、永井

五月の午後に

永遠はなかった 永遠に   十二年間 芦屋浜を歩いても    えっちゃんは帰って来なかった 一度も 毎日 まぼろしは帰って来たけれど   それでも なぜか ずっと 海を見て 待ち続けた 馬鹿

クロソウスキーの「歓待の掟」を読む。

 ずいぶん昔の話になってしまう。かれこれ三十七年が過ぎてしまった。  その当時、一九八九年の春だったか、今はなき尼崎の「つかしん西武」でクロソウスキーの展覧会を観た。えっちゃんという彼女と二人で。  小さなスペースで、入

芦屋ビーチクラブ その112

 快晴の日曜日の朝。芦屋浜のゴミ拾い。五月にしては暑くなってきたが、風があって、作業をしていて少し汗ばんでいても、背中がスイスイ冷やされて、気持ちいい。    日曜日の朝は浜でいろんなゴミを拾っているが、私は気

亀とスナック

 私はいつも金曜日の夜は、スナックのカウンター席の右隅に座り、右半身をそっと壁に傾けて、時折、目を閉じ、ウイスキーのグラスを唇に寄せ、あるいは、その唇は煙草をくわえてみたり、午前零時が来るまで遊んでいる。  

スナックに浮かぶ満月

 その夜は星ひとつない空が墨で塗り固められていた。スナックのドアを開けると二人の足もとが闇から浮かび上がつた。客はいなかった。ベージュのソファーに腰を下ろして。   Ⅿ郎 君とはこんな四角い間柄ではなかったと思

胸に咲く花

 昨夜は家飲みしているところ、ラインが入った。   S美 今から出て来ない。どう? すぐ返事して。他の男探すから。 M郎 わかった。すぐ行く。どこにいるの? S美 H駅の近く。 Ⅿ郎 十分くらい待って。タクシー

今夜も ひとり

 事故をやってしまった。何とかしたい。協力してくれないか。  ホラ。これが事故の詳細だ。出来るだけ細部までわかるように書いたつもりだ。一読してくれ。不明な点があれば遠慮しないで訊いてくれ。いつでも説明するから。 &nbs

「別冊關學文藝」第七十二号が発行されました!

 私の手元にこんな文芸誌がやって来ました。    「別冊關学文藝」第七十二号 編集人/浅田厚美 発行人/伊奈忠彦 二〇二六年五月十五日発行    小説から、短歌、詩、さまざまなエッセイに至るまで、文芸

芦屋ビーチクラブ その111

 いつも、日曜日の朝は芦屋浜に行ってゴミ拾い、してます。  でも、きょうは、違った!    私の街区の自治会で、今年は役員になりました。一年間だけだけど。そして、美化委員で、お掃除の担当責任者。きょうは、私の住

亀と彼女

 昨夜もいつもの通りスナックでウイスキーに溺れ、帰宅したのは今日の零時過ぎ。    明け方。彼女が出てきた。街角を曲がると、寂れた田舎道で、おそらく激しく愛を語り合ったのだが、「おそらく」と前置きしたのは、画像

骨の体で

 壊して欲しい、あなたの声が聴こえた。だったら、何故壊してほしいの、Mはリカに尋ねた、ボクに教えて。    ダメよ、そんなこと。また、リカの声。いったいこれって何だろうか。どうして、わけを話してくれないんだろう

リカちゃん、この手を握ってくれないか。

 どこかで恐ろしいことが起っているようだ。まだ実態は不明だが。  この近所でも、見知らぬ女の顔だけが無数に出てくる、というか、際限なく変形していくんだ。まさかというかもしれないが、まあ、想像してみてくれ。般若づらした女が

だったら彼女は生きている……

 昼ではなかった。確か夜だったと思う。あの道を歩いたのは。    商店街ではなかった。公園でもなかった。海鳴りが聞こえていた。だったら、おそらくあの浜辺に近い道を歩いていたのだろうか。そうじゃないだろうか。いや

持ってる?

わたしの心の中に保存されていることは この世ではどうでもいいことばっかり でも 誰のものでもない わたしの心の中だけに残っていることが わたしには一番大切   死んでしまっても なお 死より強いもの あなたは持

芦屋ビーチクラブ その110

 蒼穹、という言葉があるが、けさの空は、まさにこの言葉がぴったし。  ちょっとネットを覗いてみると、蒼穹は深く晴れ渡った「青空」や「大空」を指す雅語、AIはそう語っていた。  体が青くしみとおる、そんな気がした。  この

亀、分裂、愛。

 結合していた物質が進化の果て、分裂して孤独な存在へ向かっていったのではないか。だから、ふたたび結びあうこと、つまり、愛が、激しい愛が発生したのではないだろうか。  けれど、誤解しないで欲しい。愛といっても、さまざまな愛

夜の片隅から聴こえてくる

S美 ダメだ。今夜も酔っ払っちゃった。   M郎 だったらもっと酔いな。   S美 酔っ払って、鼻糞食べちゃった。どう。あんたにあげる。   M郎 やけに大きい奴だな。   S美 

不可知論

体が 剝がれていく どうしてだろう どこか悪いんだろうか 昨夜も 左足が消えた   右足はまだあるだろうか

詩誌「ア・テンポ」69を読む。

 牧田榮子さんから送られてきた詩誌を読んだ。    「ア・テンポ」69 発行所/「ア・テンポ」の会 発行人/丸田礼子 編集者/牧田榮子 2026年4月25日発行    十人の執筆者が十八篇の詩を発表し

体の花

体の中に咲く花は 恐ろしい 全身から水分を吸いあげている 血も リンパも 下腹部には 濃緑の葉群れが生え 黄色い茎を伸ばし 首すじ辺りに 黒紅色の花が開いている   時に 花芯から白い液を出し 唇を濡らす

怪我の功名

彼女 あなた、外反母趾って、知ってる? 彼 それって なに? 彼女 若気の至りなの。綺麗な足に見せようとして、先の尖ったハイヒールはいてたから、親指が小指の方へ曲がっちゃったあ。 彼 痛い? 彼女 まだ少しだけ。ホラ、見

芦屋ビーチクラブ その109

 きょうは五月の最初の日曜日。  五月最初の芦屋浜のゴミ拾い。  ゴールデンウイーク真っ最中。    五月空。この言葉ぴったしの、どんよりした気配がする浜辺。  北を望めば、空も、六甲山も、どんより。  論より

亀とサツキ(続)

 もう五月になっていた。ツツジは終わりを迎え、サツキが咲き初めていた。  以前にも触れているが、土曜日がやって来るたび私は亀の池を掃除している、その理由は二つある。  一つは、私のようなニンゲンもそうだが、亀だって衣食住

無知

いつも 酔っ払って 自分の脳の中をさ迷い歩いているので はたして 夜空に 星が浮かんでいるのか 輝いているのか   知らない

青い鬼

信号が青に変わったので 私は横断歩道を渡った 左方から小型トラックが猛スピードで走って来る 一瞬 私は見上げた すべての信号が青だった 私は記憶している 体が跳ね飛ばされた 宙に舞い上がった   これが最後の記

脳が騒いでいる

この球体状の内部には 言いたいことが いっぱい    その中身が 目から出れば 目糞        鼻から出れば 鼻糞        耳から出れば 耳糞        口から出れば 歯糞   だったら

左手

肩をたたくものがいる   振り返ってもだれもいない   だが 未明になると   肩をたたいている   左手だけが見える

抵抗

なんだか すべてが 浮きあがっていた 家財道具が 机が 椅子が 茶碗 スリッパ 花瓶 スマホ 冷蔵庫に至るまで すべてが   けれど なぜだ ベッドに 寝転んでいる このワタシという物体は どんどん ずるずる 

芦屋ビーチクラブ その108

 きょうは四月二十六日。日曜日。芦屋ビーチクラブの活動日。ただ、きょうはそれだけじゃなかった。まったく個人的なことで、他愛ない話だが、といって、私にとってはとても大切な日だった。  この日、二十三年前の四月二十六日、私た

亀と私のふたつの命

 思い起こせば、私は幼い頃から昆虫や爬虫類など、小動物に興味を持っていて、彼等と触れ合うことがとても好きだった。まだ小学校低学年だったが、庭の片隅でトカゲを何匹も、いや、二十匹くらいだった、飼っていた。いらなくなった流し

言葉の泥遊び

遊び方も すっかり 変わった 戦後 まもなくに生まれたボクは 毎日 どろんこ遊びをしていた 母は仕事にお出かけ 夕暮れ 帰って来るまで どろんこになって遊んでた ひとりぼっちで   貧しい時代だった ほとんどの

今夜はここまで

少し歪んでいるんじゃないか そんな声が聴こえた 誰だ そこにいるのは 思わずMは叫んだ お前は 誰だ   追いつめられているのは確かだっだ それは否定しない だが いつから あなたは追いつめられ始めたのか この

ひとり遊びとふたり遊び

Ⅰ ひとり    ふたつの手のひら  指 十本  かさねあわせ  乱れ    足裏から  脳天へ  紅紫の火の玉が  燃えあがり    目を閉じて 火炎を見つめる ふたつの眼球