芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

アルファさん 第四夜

 声が聞こえた。  オメガちゃん、ここよ、ここにいるよ。  午前三時三十八分。  小さな沼に群生する冬枯れたヨシの間から、アルファさんの顔がのぞいていた。この沼にアルファさんは住んでいるのだろうか。こんなところで暮らして

「鳥」第85号(最終号)を読む。

 榎本三知子さんから詩誌が送られてきた。    「鳥」第85号(最終号) 編集者/佐倉義信、なす・こういち、元原孝司 2023年12月30日発行    この号で、詩誌「鳥」は終刊する。1983年創刊か

アルファさん 第三夜

 不思議なことがわかった。  今夜、ボクがアルファさんと呼びかけたら、彼女が出てきた。顔だけが、頭の中に浮かんでいた。スーと出てきて、ふわぁっと消えた。一瞬の、音のない、波のゆらめき。  スマホを見ると、午前一時三十一分

「現代詩神戸」283号を読む。

永井ますみさんから送られてきた詩誌を読んだ。   「現代詩神戸」283号 編集/永井ますみ・今猿人・神仙寺妙 2023年12月10日発行   十九人の作家が二十四篇の詩を発表している。すべて楽しませて

アルファさん 第二夜

 結局、誰にもわかってもらえないことがあるのだと思う。そして、それでいいのだと思う。自分ひとりだけのこと。  アルファさんのことだって、誰も信じてなんてくれないだろう。でも、今夜も彼女はボクのそばにやってきてくれた。  

アルファさん 第一夜

 こんな未明に会える人がいる。アルファさん。  この人についてまだ何もわかっていない。でも、これからわかるかもしれない。  ベッドに寝ころんだままスマホに手を伸ばし画面を見た。こう書いてあった。2024年1月1日AM3時

日の出と雲と

 新年は朝四時前に起きた。睡眠状態から目覚めへ移行する間に浮かんだイメージを連載物の作品にしようと考えてみたり、また、今年の三月一日に発行予定の芦屋芸術十九号に昨夜メールで寄稿してくださった方の原稿を読んでみたり、それか

今年の総括 来年への展望

 きょうの午後四時過ぎ、今年最後になるが、芦屋浜から総合公園への散策を楽しんだ。歩きながら、不図考えた。まったく個人的な話だが、この一年、私はそれなりにやりたいことをやり遂げたのだった。ワイフを喪って九年目、やっと彼女か

未明に

 今夜は十二月二十九日、今年最後の忘年会だった。友人Nの家で五人の男が集まって酒杯を交わした。いつもお世話をかけているN夫人の手料理が出された。妻を喪って九年、私は一度たりとも夕食は家で摂らなかった。毎日、外食だった。朝

消えてゆく人

 わたくしはひとりだった。  ここではさまざまな人が働いているのだとばかり思っていた。しかし、それは虚妄だった。  音もなかった。別に眠っているわけではない。目覚めているのだが。言葉さえ聞こえなかった。無音で、無言だった

暗い話を聞いた

 十一月になって、身近で暗い話が語られていた。詳細は書けないが、大切な友人が躁うつ病が悪化して傷害事件を起こしてしまった。今は、入院治療をしているが。  その他にもさまざまな暗い話があった。そしてきのう、深く付き合ってき

中へ

前頭葉に 唇が開いていた ここから入れ 彼は そう言った   前頭葉の唇に私の唇を重ね ねっとり たがいの舌を絡み合わせて やがて 私は 中へ導かれた

芦屋ビーチクラブ その21

 きょうは芦屋ビーチクラブの活動の本年最終日。ただ私は九時半から用が出来ているため、朝八時に参加し、みんなに最後の挨拶をしてそのまま我が家に帰った。  帰路につく前、数人の仲間が芦屋の海を背にいっしょに写真を撮ってくれた

一日一詩をやり遂げました!

 先月11月22日から、今月12月22日まで、つまりきのうまで1ヶ月31日間、毎日詩を一篇作りそれにあわせて挿絵を一点描き続けました。やり遂げました。すべて芦屋芸術のホームページに毎日発表しています。  去年の10月31

お別れパーティー

 ボクの方からお別れするつもりなんてみじんもなかった。だが、誘われた以上、その夜、出かけざるを得なかった。ボクにとってはやるせなく、とても淋しいパーティーだった。  会費は一人三千円だった。E子の家で。彼女も入れて七人。

最後の講義

 さて、ここでT氏のY研究所における最後の講義のあらましをご報告しておきたい。興味深いだけではなく、心の底に強い印象を残し、少なくともその後の小生の人生の航路を転換させたことだけは告白しておきたい。出来得るなら一人でも多

決して忘れない

結びついたまま 離れなくなった 混乱していた 乱れて 右手が出ていた    そんなあなたが好きです   右手を左手が押さえて 中に入れた 足が歩きだした 歩きながら ほどけていった 結び目は消えていた

交霊会

 死者の霊と交わることが出来るという触れ込みに興味を覚え、彼はその会に参加した。申し込みはネットで受け付けていたが抽選で十名ということもあって、まさか参加出来るなんて思いもしなかった。忘れていたころ、案内状が来た。  ビ

再就職

 直接対応することにした。タマネギを大量にスライスした。再就職をするのならここだ、彼はそんな思いを心に秘めて、タマネギを切り続けた。まだ得体の知れないあいつの仮面を取り外してやる、必ずほんとうの姿をあぶりだしてやる、固く

芦屋ビーチクラブ その20

 寒い! 急に寒くなった。きのうまで暖かい日が続いた。冬になった、そう思った。日曜日の朝、芦屋浜には冷たい風が吹いていた。それでも芦屋ビーチクラブのメンバーはめげず、きょうも浜の掃除に精を出した。  私はこの間ずっとやっ

昼は絶えて

私は何が言いたいんだろう。確かに星が出ていた。昼間は雲ひとつない青空だったが、夜も満天星が輝いていた。月は出ていなかった。この時期、月は夜明け前、木星と接近して東の空に浮かんでいるはずだ。だから、人々は月のない星空の下で

冬の真夏日

 余程嫌われているのだろう。ほとんど哀れというほかなかった。だからこの二年間、彼は毎日自分に向かって、おまえはとても哀れな奴だ、何度も言い聞かせ続けてきた。また、こうでもしなければ、JRの線路に寝転ぶか、ビルの屋上から飛

十二月の鴉

静かに墓場まで行こうと思う そんなとりとめもないことを語りあいながら 十二月の夕暮れ 男は女の肩を抱きしめて歩いていった   屋根の上で 鴉が鳴いた

ある混乱

 やっかいな問題を抱えてしまった。一応息子ということにしてある。何故そんな馬鹿なことをしたんだ、そう問詰されてもお答えするすべはない。  事の次第はこうだった。  展示会で編物のポスターを見ていて、一度やってみよう、まっ

こうして死んでいく。

 彼は身辺から楽しみがなくなっているのにやっと気付いた。ここで「やっと」と表現したのはそれなりに意味があった。  彼がこの世で生きたこの七十数年間、時に応じて、あれこれ楽しみがなかったとは決して言えなかった。だからこう言

楽しかった

 ひょっとしたら酒はからだにいいのかもしれない。そう思えるこのごろである。もちろん、毎日酒は飲んできた。そろそろ生まれて百年に近づいてきたが、昼間から当てなしで飲んでいる。元来私は酒が好きなので、当てやおかずはなしで飲む

緑色の愛

 部屋の片隅に黒い円筒形のゴミ箱。いったい誰が置いたのだろう。彼にはまったく記憶がなかった。  直径三十センチくらい、高さ五十センチくらいのなんの変哲もないゴミ箱。中を覗くと、底に直径二十センチ近い楕円になった緑色のゴム

芦屋ビーチクラブ その19

 きょうはお天気で、まだ十二月だけれど、冬が終わり、やっと春が来た、そんな日曜日の朝八時前。いつものごとく芦屋浜へ足を運んだ。  ここ一ヶ月くらい、しつこく浜の雑草を抜き続けているが、手間取っている原因の一つは、浜の雑草

ガラスの滝

 危ない集合住宅に住んでいた。とんでもない話だった。すべてはガラス製品だった。透明だった。  テーブルも椅子も透明ガラスだった。腰を掛けるのがためらわれた。割れたり折れたりするのじゃないか、とても不安だった。また、床から

亀、いまから冬眠します!

 きょうのお昼、十二時半ごろから亀の池のお掃除。お掃除といっても、もう池には水を入れないで底砂だけにしてこの冬を越す。亀は冬眠。  例年の如くバケツに腐葉土を入れ、その上に亀を置いてやる。彼は潜りこんで、そのまま来年の春

立入禁止だった。

 仕事から帰ってみると、立入禁止になっていた。九年前に妻を喪ってからというもの、一人住まいだったため、確かに廃屋に近い状態だと言えなくもなかった。しかし私はこの中で飯を食ったりベッドに寝ころんだりして暮らしてきたのだ。ご

赤いスープ

スープが出て来た。濁った赤。 人参だろうか。それともトマト? だだっ広いレストランに彼ひとりだった。 従業員の姿が見えない。 ならば、このスープは誰が運んだのだろう。 こんな初歩的な疑問が頭をかすめた。 まあ、いいじゃな

ある悲劇

あれはいったいなんだろう 例えば こんな音がした    ずるずる  ざるざる   でも どうやら 日替わりメニューみたいで    かなかな  さなさな   だからいったいなんだろう

寄稿文芸誌「KAIGA」No124を読む。

 原口健次さんから詩誌が送られてきた。    「寄稿文芸誌 KAIGA No124」 編集発行人/原口健次 発行所/グループ絵画 2023年11月30日発行    この詩誌は、四人の作家(うち一人は物

再婚

黙っているのはよくない どんどんボクを批判してくれ 中学生の時 担任の先生から 人は批判されることによって大きく成長する ありがたい教えをこうむった だから 妻にも 毎日 ボクを批判してくれ 何度もお願いしたのに 好きな

とりあえず おやすみ

そうじゃないのか 嘘をついていたのか 残念だな これでお別れにしよう   もっと早く知りたかった 君が嘘ばかりついていたのを だったら 君の嘘をもっと楽しむことが出来ただろうに   なんでも早くすます

海鳴り

 夕方、辺りは赤味を帯びて輝いていた。月並みな表現ではあるが、夕焼けが燃えていた。山の中腹に位置する温泉街なので、晴れた日の夕暮れ時はいつもこうなのだろうか。  バス停があった川向うから橋を渡った交差点、左手の対向一車線

芦屋ビーチクラブ その18

 きょうは日曜日。朝八時から芦屋浜のお掃除。やはり、先週からやり残している雑草抜きと石ころ拾い。  思えば、作業をしていると、一時間くらいはアッという間。結局のところ、雑草抜きは未完成交響曲。ヨシ。来週も雑草を抜くぞ!

どんづまりだった

 暗くて明るいのがあるかもしれない。ボクがそう呟いた時、何が言いたいのかさっぱりわかんない、あなたは頭ごなしに否定した。けれど、ねえ、お願いだ、まったく意味不明だなんて決めつけないでくれまいか。  どうしてボクをそんなに

「風のたより29号」を読む。

 伊川達郎さんからこんな文芸誌が送られてきた。    「風のたより 29号」 発行所/風のポスト 2023年12月1日発行    一通り読ませていただいた。詩、小説、評論など、さまざまな作品が収録され

結局

 どうしてこれほどまでに穏やかな気持ちなんだろう。既にここまで追いつめられて、逃げ場はもう十歩たりとも背後に残されてはいなかった。  確かにそれが事実なんだろう。また、この期に及んで、まさかこの事実から目をそらそうなんて

会議室

 それは空しい抵抗なのかもしれない。何故もっと早く気づかなかったのだろう。今となっては、もう手遅れなのだろうか。  こんなうっとうしい話なんて、誰も聞きたくもないだろう。私が語り始めたならば、みんな耳を両手で塞ぐだろう。

新たな部屋に招かれて

 いつもの行きなれたレストランだった。私は妻を亡くしてから、朝と昼のご飯は自分で作っているが、晩は毎日外食だった。そのうえ、同じレストランばかり通っていた。ひとりで生活しているので、余りストレスになることは避けて日々を送

亀、冬眠間近。

 午後一時前から亀の池の掃除を始めた。水が冷たい。  掃除が終わってからしばらく彼と遊んでいた。やはり寒くなって動きがゆっくりしている。次回の水替えか、それともその次か。いずれにせよこの寒さなら十二月十五日前後までには、

後藤光治個人詩誌「アビラ」16号を読む。

 後藤光治さんから詩誌が送られてきた。彼の個人詩誌だが、そして彼ひとりで執筆しているのだが、いつも私は楽しみにしている。ひとりでよくここまでやっているなあ、教えられ、また、励みにもなっている。私も「芦屋芸術」を持続しなけ

小さな暗黒

それは突然流れ出て来た そう言ってよかったと思う 決して夢ではなかった 妄想でも まして冗談でも   開いていた 理由は知れなかった 驚愕したまなざしでそれを覗いていた あなたと二人だけで   奥は見

チュンチュンするもの

うごめくもの からだじゅうで   体中でも 体外でも   これはいったいなんだろう 小さいのは一センチ いや もっと小さく   大きいのは三十センチくらいもあって 朝から   下手

ツイツイと

首を絞める人がいる 深夜ではない 真昼だ   人影はなかった 両手だ 最初 両手の気配だけだった   空中移動する 輪になった 十本の指   人であって 人ならざるもの 指だけで &nbsp

芦屋ビーチクラブ その17

 きょうも、日曜日の朝は芦屋浜の清掃活動。前回に引き続き雑草を抜きながら、石を拾って、ゴミ置き場へ。  確かきょうは寒くなるという予報だったが、作業をしているとむしろ爽やかな朝の時間だった。  こんな反省をした。……きょ