芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

笑顔が張り付いていた

崩れていく

もう虫一匹いない

チリひとつない

無音で 無抵抗のままで

 

ことの次第はこうだった……

……人の形をした

緑色の汁があらわれ

やがて紫の泡になり 乳色の薄い膜になって 消えた

 

あれは

カラスか

カラスが鳴いているのか

一羽ではない 無数だ

 

その鳴き声も

絶え

ひととき

あの人の笑顔がいちめん張り付いていた

 

思えば あの時 あの人もまた 無音で 無抵抗のままで