芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

浮くこと 沈むこと

 朝、ベッドの上で目覚めた時、浮沈という言葉がひらめいた。  浮いたり、沈んだり。そして、きょうは、「沈」の方だった。心が沈んでいた。  確かに昨夜、いつものスナックでかなりウイスキーの杯を傾けてしまったが、帰宅したのは

どう思う

あたし 水が好きなの    あのね まだ三歳だったよ うん   だから 洗濯機の水 のぞいてたの お馬鹿さんね 気がついたら 洗濯機の中で 泳いで 失神 目覚めたら 病院 命 瀬戸際だった でも あた

ボクは「生身」が大好き

 今夜もダイニングの片隅で正座して、腕組みして、首をかしげていた。つまり、ボクにはよくわからないが、どうだろう、紙に書いた文字や絵、ネットに浮かんだ画面、そこにはブログに投稿した自作の文章や絵が並んでいるのだが、こんなの

腐っても鯛

 腐ったものを全部、吐き出したい。私もそんな年齢になっていた。愛しあった女を喪ってそろそろ十二年になるのか。七十五も超えてしまって。節々が痛みを覚えるばかりではなく、その周辺が腐り始めて来たらしい。腐肉を除去する手術をす

「パニッツァ全集 Ⅰ」を読む。

 現実と妄想がまだら模様を描いて作品が完成されていく。  そんな作品が好き、こうした傾向の人にはこの本をお勧めする。    「パニッツァ全集 Ⅰ」 オスカル・パニッツァ著 種村季弘訳 筑摩書房 1991年7月2

芦屋ビーチクラブ その99

 春になった。  芦屋浜のゴミや雑草を抜いていると、少し汗ばんでくる。  それ以上に、冬よりも濃い青空が雲ひとつない空を覆い尽くしている。おそらく、冬の青空よりも春のそれの方が色が濃いのではないだろうか。気温もあがってい

夜の会話

 人さまざま、私は晩年、この言葉の由来するところを痛切に感じている。  こんな感情を余生で、心の底で、そっと、大切にして、この世を渡り過ぎていこうとしている。  そもそも私の場合、妻との四十三年間、恋人のまま、つまり愛し

ボーボー

 何が光っているのかわからなかった。ダイヤモンドではないのは確かだった。なぜって、こんな貧しい我が家に宝石なんて。女っ気もなしに。ましてダイヤモンドが。  だったら、あれは禿げ頭が光ったのだろうか。いや、そうじゃあるまい

「芦屋芸術」二十五号が出来ました!

 芦屋芸術二十五号が出来ました。今年最初の発行です。  内容は以下の通り。   contents <招待作品> いつきの物語                                          

ダイニング遊戯

 鼻の根元が腐っているのじゃないか、こんな些細なことで思い悩む日が続いていた。  日が経つにつれ、このままほうっておいたら、取り返しがつかなくなって、鼻が崩れ落ちてしまうのではないか。鼻が崩れ落ちたらいったいどうなるのだ

シュオブ短編集「黄金仮面の王」を読む。

 ずいぶん昔の話だが、この作家がイイネ、そう思ったときがあった。奇妙な作家だ、そんな印象が今でも残っている。    「黄金仮面の王」 マルセル・シュオブ著 大濱甫訳 国書刊行会 1984年8月25日初版第一刷

芦屋ビーチクラブ その98

 日曜日。朝八時。芦屋浜のゴミ拾いと雑草を抜きながら、東北端の堤防の階段付近から西北端に向かっていた。  西北端で、そこはまだ雑草が残っているので、しゃがみこんで作業を始めた。おそらく二十分余りか、雑草を抜く手を止め、そ

いつも焼酎ばかり飲んでるの

 夜、二軒以上を回ると帰宅は午前二時前後になってしまう。昨夜は一軒で引き揚げた。こんな時の帰宅はいつも午前零時過ぎだった。   私 焼酎、好き? 彼女 ええ。いつも焼酎。 私 ボクも家では焼酎中心で飲んでる。焼

作られた人

   長い間、人混みの隙間を縫ってチョコチョコ飛び跳ねて暮らしていた。十メーター幅くらいのアスファルトの道路を挟んだ商店街のアーケードの下を。    数日だったか、それとも数か月か数年か、いや、数十年

一行だけの手紙

 目がつぶれている。こんなことでも、すぐに気づかなかった。もうわからなくなってしまった。これにはきっと理由があるはずだと、ずっと思い続けていたのだけれど。でも、ほんとは目じゃなかった。確かに毎日、ボクは目を酷使していて、

ミキリンという女

 別れた理由は、こうなの。  パワハラもあった。髪の毛、引っぱって、さすがに顔までは殴らなかったけど、体のあちらこちら、殴ったりした。子供たちの前でも。次男や三男は憶えてないけど、長男が高校生になった時、別れた父親のこと

自宅

 鍵を失くしてから私はずっと自宅に入っていない。また、鍵を持たないニンゲンは入れないものとばかり思っていた。なぜって、居住者なら必ず鍵を持っているはずじゃないか。鍵を持っていない人間は不審者ではないだろうか。そんな葛藤が

十三回忌への途上

いまは海を海として見ている 山を山として見ている   山と海に挟まれた 通いなれた散歩道   あの頃はそうじゃなかった 山も海も見てはしなかった   あなたを見ていた

芦屋ビーチクラブ その97

 きょうの日曜日は、芦屋ビーチクラブを休んだ。確かに昨夜飲み過ぎて、帰宅したのはきょうの午前一時を過ぎてしまった。しかし、寝不足が芦屋浜のゴミ拾いを休んだ理由ではなかった。  きょうは午前九時半から文学の会があり、それに

私の千夜一夜

 きのうも芦屋の夜の町を歩き、帰宅したのはきょう、午前零時過ぎ。  七時に起きて、家事を始めたが、スズメたちのことが気になって、ダイニングのシャッターをあげガラス戸を開けたら……もう彼等はウッドデッキの手すりで待っている

牧田榮子詩集「夕焼けもせずに」を読む。

 牧田榮子さんから詩集が送られてきた。    「夕焼けもせずに」 牧田榮子著 澪標 2025年12月31日発行    この詩集は三部で構成されている。巻頭詩一篇、<Ⅰ>に十一篇、<Ⅱ>に十篇、<Ⅲ>に

夜になって真理がやって来た

すべてが終わっていくということは、どういうことなんだろう。   終日、そのことについて考え続けていた。なんの成果も得られなかったが。   窓の外はもうたそがれていた。   今夜は、焼酎のお湯

トラウマを越えて

マユロン 別れた理由、こないだお話ししたわね。パワハラの恐怖の物語。 だからわたし、もう男の人が愛せないの。二十歳前後でしょっちゅう殴られたから。 これをトラウマってゆうのかしら。どうだろう。……   M マユ

ひとつのボール

ひとりの女と 黒い犬が 浜辺に立っていた   ひとりの女が 海に向かって投げたボールを 黒い犬が口にくわえて 彼女の手にもどした   そんな昔の記憶が彼にはあった     *写真は

芦屋ビーチクラブ その96

 きょうはめずらしく芦屋浜の西側の雑草のお相手はそこそこにして、東側の堤防沿いの雑草を抜いてみたりした。なぜか、あてもなく、あちらこちら浜をうろついて。おそらく、心が乱れているのだろう。  脳裏も乱れて、さまざまな思いが