芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

みっつ

 しじまがあった。こんな言葉が口をついて出できた。未明。二時を過ぎたところだった。ベッドに仰向きに横たわって、まだ、瞳は閉ざされていた。けれど、はっきり、しじまがあった。この一節が鎖されたマブタに浮かんでいた。  音はな

心はジャングル

悲しいままでいい そうじゃないか 愛した人を喪って 余計なこと 考えないで 悲しいままでいいじゃないか   ちょっと 待て それがそうじゃなかったんだ 悲しい時もあったし うれしい時もあったし 酒がうまいし カ

昔の記憶

 葉書が出てきた。海と円錐形に突き出た島が描いてあった。黒い太い線。墨汁で描いたのだろうか。なぜかこの島には、ずいぶん昔、訪れた記憶があった。  脳裏に島内の風景の映像が走った。白い小さい浜辺。オリーブの林。青空に浮かぶ

渦巻

 どうしてこんな状況に立ち至ったのか。既に手錠をはめられていた。そして、背後から目隠しをされた。何も見えなかった。複数の人間がいた記憶は残っているが、何人いたのだろうか。黒い覆面で顔を覆っていたので、男だろうか女だろうか

亀とこの家で二十二年

 昨夜は行きつけのスナックで九時過ぎまで飲み、一昨夜訪れたスナックへと流れた。ある事情があった。言うまでもなく、夜遊びの他愛ない事情ではあるが。しかし私のような低劣な男には、他愛ない事情の中で自分なりに生きているのだが。

裏側の穴

穴が あいているから すべてを 忘却する   靴下ではない ごらん 足の裏から 記憶が 流れ 去っていく 刻々と

長芋とろろでよかったんだ

 どこをうろついていたのかわからない。あれは舗道だったのか、それとも廊下だったのか、既に記憶は鮮明ではなく、頭の中に黄昏がやって来たのだろう、過去は薄い灰色の膜に覆われてしまった。結局、たどり着いたのは、長径五十センチ短

シュトローブル短編集「刺絡・死の舞踏他」を読む。。

 文学に対してさまざまな考え方があるのだろう、不勉強な私には皆目わからないが。文献学や語学などの世界は別として、私個人に関して言えば、文学は自分の好悪に素直に従って選らんでいけばそれでいい、そんな読書遍歴をしてきた。  

芦屋ビーチクラブ その65

 昨夜はいつものスナックで遊んで、帰宅したのは今日の午前零時半ごろ。けれど、朝八時から始まる芦屋ビーチクラブの活動にどうしても本日は参加しようと思っていた。もう二か月間、私は芦屋浜の清掃を怠っていた。  六時に起床。家事

亀と花花

 今週の木曜日は誘われて夜更かししてしまった。帰宅したのは金曜日の午前二時半ごろだった。ある事情もあって、昨夜は我が家でおとなしくして、早く就寝した。  本日、土曜日、亀の池の清掃日。朝四時に起きて、家事を済ませ、庭の掃

円筒形だった

左の方から棒状の光が走って来て 左頬を打った すぐに左方を確認したが 何も見当たらなかった あれはいったい何だったのか 懐中電灯ではなかった なぜって 左には誰も立っていなかったから 枕元に置いてあるスマホを見たら 午前

いったい どうすればいい?

 その館に何が住んでいるのかわからなかった。いろいろな説があった。三人のゾンビを見た、そう証言するその地区の郵便配達夫までいる、そんな奇妙な噂まで彼は耳にした。それでは、いったいどんなゾンビだろう。  ニンゲンの死体が蘇

カルペンティエールの「バロック協奏曲」を読む。

 こんな本を読んだ。    「バロック協奏曲」 アレッホ・カルペンティエール著 鼓直訳 サンリオSF文庫 1979年5月15日発行    この本には中編「バロック協奏曲」と短篇「選ばれたひとびと」の二

コクトーの「怖るべき子供たち」を読む。

 先日この著者の「大胯びらき」という作品を読んだ。今回はこんな作品を読んでみた。    「怖るべき子供たち」 ジャン・コクトー著 東郷青児訳 角川文庫 平成5年6月20日改版45版    この作品の成

別れの合図

また、ここにもどってきた。もう二度と、帰らないと、誓ったはずなのに。   瞳が浮かんでいた。いったい誰の? おそらくは、あの……確かに浮かんではいるが、いかなる動力で空中移動しているのか、皆目わからなかった。そ

亀日和

 毎日、空気は、暖かくなったり、冷たくなったりを繰り返しながら、それでも気温は徐々に上昇しているのだった。  けさは、暖かくなっていた。  土曜日。恒例の亀の池の掃除日。昨夜は少し飲んで帰宅したのは本日午前零時半。未明、

そんな日も ありました

どうやら 晴れの予報だし 未明に起きて 芦屋芸術のブログに作品を投稿するよりも 夜は熟睡し 朝五時に起床して 洗濯することを優先しよう 一週間ぶりの洗濯 そうして 午前中の仕事が終わって帰宅したら たまには 一日 ぶらぶ

ある自転車

 ほの暗い路地だ。狭いといっても、幅一メートルもない、ほとんど線状路地とでも表現すればいいのか。  おおよそ十メートルくらい先は行き止まりになっていて、高さ三メートルほどのコンクリートの壁になっている。壁の左側には幅約三

もう夜道は歩かない

それがそうじゃなかったんだ だったら これから どうなってしまうんだろう はっきり こうだと 言ってください どうか はっきり こうなんだと   ええ 先生 そうなんです わかってください くるくる回ることもあ

あいてる

風が消えた 夜が止まった 街路樹が沈黙した だが この闇の静寂の中から 息づかいがした 左肩の上 耳たぶのそばに 声が落ちた    来週の水曜日  あいてる?

コクトーの「大胯びらき」を読む。

 こんな本を読んだ。    「大胯びらき」 コクトー著 澁澤龍彦訳 福武文庫 1994年11月4日第8刷    オシャレな青春小説だった。コクトーの趣味があちらこちらからにじみ出てくる気持ちがした。言

夜になると 売るのだが

皆様 この水は 純粋を持続するために 濁っていた また 濁らなければならなかった つまり 濁らなければ 純粋になれなかった いや むしろ ホントは こうです 純水といわれるものは 濁水の底から 噴き出してくるものだ わた

寄稿文芸誌「KAIGA」No128を読む。

 原口健次さんから詩誌が送られてきた。    寄稿文芸誌「KAIGA」No.128 編集発行人/原口健次 発行所/グループ絵画 2025年3月31日発行    この詩誌には、いつもの通り、四人の詩人が

亀、四月だが寒い朝。

 昨夜も夜遊びで帰宅したのは本日、午前二時半ごろだった。去年からこの傾向はかなり見られたが、今年になって毎週金曜日土曜日はほとんど、あるいは、かならず午前様だった。これだけ長時間この世で暮らしてきた我が身はやがて崩れ去っ

後藤光治個人詩誌「アビラ」21号を読む。

 後藤光治さんから詩誌が送られてきた。    詩誌「アビラ」21号 編集発行/後藤光治 2025年3月20日発行    この詩誌は、まず巻頭に「ロラン語録」が登場する。今号は、「トルストイの生涯」から

もっと 愛して

 信じられないことが起こった。奇妙な事件が突然彼に降りかかってきたのだ。何としてもこの事件の概略だけでもご報告しておきたい。    タバコを止めてもう二十年くらいたっている。今では居酒屋で友人が吸っていても、彼

詩誌「タルタ65号」を読む。

 先田督裕さんからいただいた詩誌を読んだ。    詩誌「タルタ65号」 編集/寺田美由記・田中裕子 発行/タルタの会 2025年3月1日発行    この詩誌では九人の詩人が十六篇の詩を発表している。ま

だったら もっと ステキ ね

最後は ゼロ なって この世を去るって ステキじゃない そうね あなた そうよ そのとおりね でも いつもよ 最後だけじゃない ねえ わかる いつも いつもよ この時 ここで よく見て ここよ この世の果て あの世でも

詩誌「タルタ64号」を読む。

 先田督裕さんから送っていただいた詩誌を読み終えた。    詩誌「タルタ64号」 編集/寺田美由記・田中裕子 発行/タルタの会 2024年11月1日発行    この詩誌は、九人の詩人が十六篇の作品を発