芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

使者

<Ⅰ>  言うまでもなく彼は憔悴していた。使者に任命されたのは確かだった。眠っているとき、編み笠を被った得体のしれない人間が彼の右肩の側に立ち、赤い封筒を枕元に置いた。「あの女に届けよ」。低い乾いた声。命令が下され、しば

芦屋ビーチクラブ その41

 暑い。とにかく暑い。朝八時から芦屋浜の清掃作業に参加。もう三十度を少し超えているのかもしれない。  昨夜は芦屋浜の花火大会。去年は花火大会の翌日の朝、主催者側のボランティアの方が何人か清掃作業に参加されていた記憶がある

紫と吸盤

花が咲いていた 吸盤の   確かに花びらも 茎も キキョウに似ていたが   根が 吸盤だった   惑星 いちめん この花に覆われていた   キキョウのような花に 蛸のような吸盤の足

亀とセミの声

 昨夜、友人から声がかかり、なじみのスナック「リーザ」で飲んで、帰宅したのは午前零時を過ぎていた。  朝遅く六時に起床。家事や朝食、庭掃除。カラスご夫婦とスズメたちに朝ごはん。すべてを済ませて、八時半ごろから毎週土曜日に

走る孤独

奥深く生きている間に 出れなくなってしまった   もう日の光を仰ぐこともあるまい 奥へ 裏側の深淵へ   おのずから潜中走法を学んだ 潜ったまま走り続けた   かつて地球上で見た存在物は皆無

寄稿文芸誌「KAIGA」126号を読む。

 原口健次さんから詩誌が送られてきた。    寄稿文芸誌「KAIGA」126号 編集発行人 原口健次/発行所 グループ絵画 2024年7月31日発行    四人の詩人が併せて十篇の作品を発表している。

酒を飲む胴体

愛しあわなければ ひとりの夜   カーテンは開いているが 耳は閉じていく   あなたの唇がこんなにも懐かしいのに 人差指も 親指も見えない   首が落ちてゆく夢 今夜も 胴体だけで酒を飲んで

詩誌「リヴィエール」195号を読む。

 永井ますみさんから詩誌が送られてきた。    詩誌「リヴィエール」195号 発行所/正岡洋夫 2024年7月15日発行    十二人の詩人の十三篇、表紙裏の作品を加えると十四篇の詩で構成されている。

詩誌「布」40号を読む。

 先田督裕さんが主宰するこの詩誌を読んだ。    詩誌「布」40号 2023年9月20日発行    六人の同人が七篇の詩を発表している。また、<ひとこと>の欄では、決して<ひとこと>ではなく、同人全員

詩誌「タルタ63号」を読む。

 先田督祐さんからこんな詩誌が送られてきた。    詩誌「タルタ63号」 編集 寺田美由記/田中裕子 2024年7月1日発行    九人の詩人が十六篇の詩を発表している。また、エッセイでは、堀内敦子氏

亀と余談

 きのうはワイフの十年目の命日で、通夜や葬式から始まって特段法事などやっていない私は、仕事を休み、一日中ワインを飲んでいた。ワイフの骨壺ばかりではなかった。愛犬ジャック、愛猫アニーの骨壺もワイフの両サイドにまだ立っている

あの人が去ってゆく夏

 午後一時前、家を後にした。真夏日の芦屋浜にはほとんど人気はなかった。  東岸の堤防の階段に座って若い男が上半身裸で日光浴をしている。顔も体も日焼けして焦げ茶色になっている。西端の浜辺の水際を黒いTシャツを着た若者が歩い

炎天下に書く

 午後零時。もっとも影が短くなる時間に、炎天下を歩く。  十年前のこの日、私は終日、緩和ケア病棟にいた。あなたは既に死の中に住んでいた。  なすすべはなかった。いまもなすすべもなく、ただ炎天下を歩いているだけだった。 &

夏を歩く

 きょうも炎天下の真昼、芦屋浜から総合公園を歩いた。  芦屋浜では数名の人と出会った。堤防沿いに私は西に向かっているのだが、前方から東に向かう女性がいた。おそらく汗だくだろう。伏し目がちな額に汗がにじんでいる。おかっぱみ

三日後の未明まで

 七月十六日。  真夏日の炎天下。お昼前に家を出る。いつものように芦屋浜から総合公園をさまよい歩く。  半ば狂っているのか。自分で言うのもなんだが、もうほとんど治癒不能状態なのかもしれなかった。少なくとも、既に常識は崩壊

転生

  〈Ⅰ〉  庭にカラスが遊びに来るようになった。  おとなしく垣根にとまったまま、彼を見つめている。「カアカア」、彼はそう呼びかけてみた。恥ずかしそうにうつむいているかと思うと、また、チョコンと顔をあげてうれしそうに彼

泥酔と恋心

 カウンターに座って彼はしばらく眠っていたのかもしれない。……    ……女が横たわっている、彼のベッドの上で。  酔っぱらっているのか、家を間違って、こんなところで。  そういえば  十年前に亡くなった妻は

芦屋ビーチクラブ その40

 久しぶりにビーチクラブに参加した。六月二日以来。雨が多くて中止の日が続き、また、私自身「芦屋芸術」のお付き合いが増え、不参加する日もあった。  浜には漂着物がいっぱい。それに雨で湿っているため、とても重く、運搬するのが

亀と亀の子タワシ

 昨夜、時折訪れるスナックから帰宅すると、午前零時前。もう、ほとんどきょう。朝六時に起床。  やる予定にしている事がたくさん。まず、家事と朝食。庭掃除とスズメたち、カラス、けさは女ガラスがひとり、彼等に朝ごはん。そのあと

再現

梅雨の終わりが近づいていたが 未明 激しい雨が軒を叩いていた ベッドに寝転んでいる両耳を 雨音が ボトボトバンバン 演奏する でも頭の中はお天気ね すっかり晴れ渡って 雲ひとつなく 満天 星が輝いているわ あなた いまは

松川紀代の詩集「頬、杖」を読む。

 静かに、平明な語り口の短詩三十四篇で構成された詩集だった。    「頬、杖」 松川紀代著 思潮社 2024年6月25日発行    子供のころのさまざまな回想、老いた現在の雑感、親族の思い出、また、夢

金堀則夫の詩集「ひの石まつり」を読む。

 詩誌「交野が原」を主宰している金堀則夫さんから詩集を戴いた。    「ひの石まつり」 金堀則夫著 思潮社 2020年4月1日発行    独特の霊的世界を言語で築き上げた一冊だった。著者の住まう星田と

正座するのが遅かった

昨夜も 飲み歩いてしまった 歯止めが利かなくなっていた このままでは 近いうちに 破綻すると思った 久しぶりに 畳の上に正座した 両足が痺れて来た それでも 座り続けた おのれに鞭を打ち続けた おい おまえは もう破綻し

黒くなる

てのひらと てのひらをあわせたら 人はそれを合掌と呼ぶのだろう   しかし けっして 結んではならない 悪に染まる かならず   黒くなる

ひとつの別れ

この頭から 言葉が消えてゆく なすすべもなく 消えてゆく   それもさよならのひとつだ   だけど 空間が沈んでいるところに 消えた言葉が浮かんでいる そんな別れもあった

無数

 あの頃、手が何本あったのか、思い出せなかった。腕組みをして、昼下がりから夕暮れまで、窓辺に座って、空を見上げていた。やがて夜が来た。    空には無数の手があるのがわかった。星が無数にあるように。

亀、門前で遊ぶ。

 昨夜、友人と居酒屋からいつものスナックへと流れ、帰宅したのは午前零時を過ぎていた。  朝七時ごろまで寝過ごしてしまい、家事や朝食を済ませ、カラス夫婦や何十羽も集って来るスズメたちにご飯を差し上げて、庭掃除。また、梅雨と

水音かな 足音かな

水の音かな ぽとりん なにかが はずれようとしていた ぬっすん いや 足音だ ぽっちん やはり はずれたのか すっかり はずれてしまったのか でも 水音かもしれないし ぽとみん つんつん むっちん つっつん オイ そんな

七月のアーモンド

 終日雨の予報だったが、幸い、曇り空から雨は落ちてこなかった。  お昼ごろ、散歩に出た。きょうはちょっと寄ってみたいところがあった。総合公園の西南端あたりにあるアーモンドのささやかな小径。左右五本ずつ並んでいるだけの。

詩誌「現代詩神戸」285号を読む。

 永井ますみさんから送られてきた詩誌を読んだ。    「現代詩神戸」285号 編集/今猿人・神仙寺妙・永井ますみ 発行所/永井ますみ 2024年6月10日発行    この詩誌は十七人の詩人の詩作品二十

詩誌「ガーネット VOL.102」を読む。

 いま、こんな詩誌を読み終わった。    「ガーネット VOL.102」 編集・発行/高階杞一 発行所/空とぶキリン社 2024年3月1日発行    十人の同人の内、ひとりは休会中で、九人で運営されて

十年目のバラに

 小雨の降る中、お昼ごろ芦屋浜から総合公園を散策。まっすぐ北に向かう中央の小道を選んで公園事務所の前に出る。そこにはバラが咲いている。誰もいない。わたしは毎年何度も飽きもせずバラ園をめぐり歩いている。十年前のきょう、七月