芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

あれだ

 何が浮かんでいるのか、わからなかった。何かだ、彼は独り言ちた、何かが浮かんでいるに違いない。

 流木だろうか。まさか。頭の中に流木が浮かぶだろうか。そんなはずはない。もっと柔らかいものだ。だって、もし流木ならば頭の皮を破って、外部へ突き出すはずじゃないか。

 念のため、彼は鏡に頭を映した。何処にも異物は見えなかった。顔面からも頭髪からも流木なんて突き出てはいなかった。

 もっと柔らかいもの。彼はあの女の左の乳房を思い出した。あれだ。きっとあれに違いない。