芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

「彼女」第一章

 四人の飲み会だった。女性一人に男性三人。その三人の中の一人が私。何をオシャベリしたのか皆目思い出せない。そもそも飲み会ってそんなものだろう。他愛ないオシャベリをして、夢中になって、盛り上がって、三々五々、お別れするのだろう、次回を約して。中身が空っぽでも、楽しかった時間の記憶さえ残れば、それだけでもスバラシイではないか。

 趣味を同じくする者同士が集まった会だった。当初会員は七名。会の名は「正夢」。この名前は行きつけの居酒屋の屋号だった。みんなそこに集合して、飲んだ。夜の六時か七時ごろから飲み始めた、ラインで連絡を取り合いながら。

 その後も何度か集まってかなり酒量を上げて騒いだ。会員も十名に膨れ上がっていたが、やって来るのはいつも五人前後。あの女性は必ず来ていた。そのうち私は親しくなって盛んにお話しするようになっていた。笑い話に近いお話を交わして打ち解けて、時に見つめ合うこともあった。

 五度目の飲み会の翌日、彼女から直接ラインで連絡が入った。たまには二人だけでお食事しませんか。例の居酒屋「正夢」で落ち合った。この時も何を話したのか記憶にない。ただ、楽しかった。今の私にはそれだけでよかった、楽しい時間にひたることさえ出来れば。

「もう一軒行こうか」

 夜道を肩を並べて歩いた。彼女の右手が私の左手を握りしめていた。