芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

永眠

 深夜、対向一車線の路上を走る乗用車の運転席側の後部座席に彼は座り、隣に妻がいた。

 前方にずいぶん古ぼけたダイハツのミゼットに似た三輪自動車がとろとろと運転している。この車はもう何十年も昔に生産中止になっているはずだ。車体が褐色に腐食していてほとんど鉄くずだった。すぐに追いついてしまった。この車を追い越そうとしてセンターライン上を走った時、目前に鉄柵の中央分離帯が見えた。もう手遅れだった。車はその鉄柵に突っ込んでしまった。

 運転手は車から降りて、暗い路上に立ち、スマホに耳を押し当てて連絡している。先程まで後部座席に座っていた彼は暗い天井を見あげ、気にするな、すべて夢だ、誰もケガなんてしていない……ベッドに寝ころんだままこんな言葉を脳裡に反芻している。隣にいた妻は消えている。彼女は十年前に永眠して、この世にいない。