芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

身辺を整理する

 最近、新しい本はほとんど買わない。長い人生という時間の中で買い続けた本が厖大な量になって、ボクの背中に重くのしかかってくる。ここ数年、冥土のみやげに、少しだけかじって水屋の中にそっと残していたおかしやおむすびを、口中いっぱいほうばっている。

 

  石上玄一郎作品集全三巻(冬樹社)

 

 この作品集は昭和45年11月から昭和46年3月にかけて刊行された。周知の通り、石上玄一郎は1927年に弘前高校に入学しているが、同期に津島修治(太宰治)がいる。一言でいって、津島修治が情念の幻覚の極限を描いたとすれば、石上玄一郎は観念の幻覚の極限を描いたのであろう。

 作品集の第一巻は「精神病学教室」他10篇、第二巻は「自殺案内者」他5篇、第三巻は「黄金分割」他7篇で構成されている。そして作品名をあげた3作を読んで、もっと読みたい、そんな読者はすべての作品を読んでみる、そうした流れではないだろうか。昔、ボクは何篇かかじった。しかし、この歳になって、やっと、すべての作品を読んだ次第である。

 長い人生という時間を食った人は、やはり、身辺を整理するにしかない、そうボクは思う。といって、まだ、去年亡くなったボクのワイフの衣装から靴まで、彼女に関する一切の物をボクは整理していない。彼女と別れて、もうすぐ一年が来るというのに。確かに本なら整理する自信がボクにはある。でも、はたして、ボクに彼女の思い出の品を整理できるのだろうか。