芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

わびとさびの世界

 このしわが、

 名人芸というものです。

 

住職は畳の上に白布をひろげ、五六人の参会者の前で、もう数十年来使い古された湯呑茶碗を置いた。正座していた彼等はすり寄り、身を乗り出して、嘆息を漏らした。誰か合図したのでもない。おのずから畳に両てのひらをそろえ、参会者みな首を垂れている。住職の人差指が示した古色蒼然たる湯呑茶碗という空間のスッカリわびさびた華麗さに向かって。

 

 ここです、このしわです。