芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ウオリス・バッジの「世界最古の原典 エジプト死者の書」

 この本は翻訳者によると、ウオリス・バッジの「エジプトの死者の書」のうちの最大の特色である「死者のあの世での生活ぶりを描いた部分だけを抜粋し」(本書243頁)、編集したものである。

 

 「世界最古の原典 エジプト死者の書」 ウオリス・バッジ編集 今村光一編訳 たま出版 平成21年7月30日第2刷

 

 この本を読んだ動機は、先日スウェーデンボルグの「霊界日記」を読んで、それならばエジプトまで霊界旅行をしようと、思いたったからである。

 エジプトの人々が描いた霊界を一々ここで論評することもあるまい。また、不勉強の私にそんな大それたことが出来るわけもない。

 ただ、霊界においても、天上界と地上界(霊界)、下界(地獄)の三層構造になっていた。そして天上界では、基本的には、聖なるものを象徴する神「ラー」と現実の地上界の秩序を統べる神「オシリス」との二重構造で成立している。尚、「ラー」は万物の原初「水」から創造された太陽神であり、生命の根源を表わし、一方「オシリス」は一人の人間の霊が霊界で修行して、その結果、神格化された霊であり、すなわち、人間の根源を表わす。

 この本では、その他、さまざまな神や霊や悪鬼などがその逸話や祭りや儀式までにわたって紹介されているが、読み進むうちに、編者の言うとおり、「エジプト人は死者はあの世で現世にいる時と全く同じ生活をするものと考えた」(本書244頁)、ついそう思ってしまうのも、私だけではあるまい。

 さて、霊界の上天、「神の国」の手前に「極楽」があるのだが、そこに住んでいる貴女アンハイという霊がいた。彼女は両親と別々に死んだが、霊界ではなく、その上天にある極楽のクウという地方で人間の時と同じく両親と共に暮らすことが許された。

 彼女は夫に先立ってこの世界にやって来たので、残された夫の霊とこの「極楽」で再会し、共に生活することを待ち望んでいた。だが、夫はアンハイが亡くなった後、再婚した。アンハイは何百万年待っていたが、ついに夫の霊が彼女を訪ねることはなかった。彼女は諦め、両親と共にその地を去った。

 紀元前何千年前の話か、私は知らない。しかし、太古から、人間は心を打つ痛切な物語を語り続けてきたのである。