芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

四つの断片から

 第一の断片 光の小川   月光は呼び出される 森はふたたび明るくなる ひとすじ 照らされる 小道 あたかも光の小川のように      第二の断片 暗くなる   雲が切れ 月の下

死んだ人

きみのベッドと ぼくのベッドを とりかえることはできない  ⁂ 眠りへの階段を飛びこして あなたは時々部屋にやって来たりする  ⁂ 死者とは ただ与えるだけの人なのだ   *二十六歳のノートから。

雨あがり

ひかりは さびしいから ひかっている    ⁂   目をつぶれば つま先から 頭の毛一本まで 光っていた    ⁂   のきばから  あまつぶが  したたる   &nbs

透明になった

この狭苦しい二間のあぱあとには 一日中陽が当たらない…… なんて小説的なことは言わない だって朝の一時間位は 六畳の間の四分の三近くまでまるで水辺になって 光の水しぶきがずんずん打ち寄せて来る 十月の朝日 おとうさんも

光る声

童話の唇をひらいた    反歌 涙が零れる まばたきをする……     *一九八〇年二月十一日と十八日に日記に書かれた言葉。私は三十歳。  

手のひらをひらく

月の光がいちめん落書しているこころは悲しい こころは空である 月の飛ぶ庭である 過去も未来もない 暗い穴にじっとうずくまって 消しゴムを離そうともしない もう落書なんて忘れたいから もう誰に見られたくもないから くれない

月光と父親と

(首のない)子供たちが 黒光りする屋根瓦の先の 春の三日月を じっと見あげている   すると夜空の遥か彼方から 黄色い自動車に乗った三日月が ばりばり音をあげて 屋根瓦の上をずっと疾駆してくる   ぼ

星の家

月のひかりの降りそそぐ屋根の下 明るい窓の中から 子供の影絵が歌をうたってくる さっきまで台所の暗い水の底で こつこつまな板を叩いていた手を止めて どうやらおかあさんは六月の夜にふさわしく しんと聴きほれていたらしい 子

空の下 地の上 雨の中

空の下から雨が降りしきる初夏の朝 七月の雨のしゃあしゃあ鳴ってる白い線を透して 小さなあぱあとの二階の窓から 街角をずっと曲がりきるまで いつものみっつの有明の星が 手を振っている あれは星だおかあさんと子供たちだ 黒光

きょう、迷い亀さんが永眠しました。

 去年の十一月十三日、ご近所の友達が歩道を歩いている亀を拾って我が家に届けてくれました。友達は私が亀を飼っているのを知っていましたから。私は飼い主がわかるまで預かることにしました。チラシを作って三カ所、掲示板に張り、また

中指のふしぎ

昼のがらす窓をたたくものと 夜のがらす窓をたたいているものとは 過ぎさりゆく中指のものがたりである ちりひとつなく磨かれた つめあと まんまるく まん月に折られた かんせつ がらす窓にもましてとうめいな はだいろ 昼と夜

焼きすてる

不図見れば 畳の上に 我が死体   不図見れば 庭木に吊られて おのが首   なんとなく 写真の我れを 焼きすてる     *一九七七年二月十三日、私が二十七歳の作品。日記帳に書か

くすぐって欲しいのに

夢の中に 死体が ころがっていた   おぱあるの 手のひらが 撒き散らされていた   目はつぶれ…… 頭の中で 月が踊っていた   あたしを打ち砕いてくださいと 足が 少しはためいた &nb

「八木幹夫詩集」を読む。

 この詩人は、大学在学中を除いてほとんど相模原に住んでいる、エッセイにそう書かれていた(本書133頁下段最終連)。大きな移動をしないでひとつの地に根ざして住まいしているから、思い出深い近くの山や川を綺麗に丁寧に描いている

川合先生、ありがとう。

 川合先生からメールが来た。彼は兵庫県立芦屋高等学校時代の担任教師で、専門のフランス語ではなく英語を教えていた。私が卒業してしばらくして、母校の東京外大に帰り、最後は郷里の岡山大学で教鞭をふるい、退官して現在に至っている

寄稿文芸誌「KAIGA」No122を読む。

 原口健次さんから詩誌が送られてきた。早速読んだ。    寄稿文芸誌「KAIGA」No122 編集発行人 原口健次/発行所 グループ絵画 2023年3月31日発行    この詩誌は四人の作家、十一篇の

書くことは、命を吸い取ることなのか。

 命を吸い取っていく鏡。昔、そんな話を私は聞いた。毎日、鏡に映っている自分の姿を見つめていると、鏡は彼の命を吸い取っていく、そんな話だった。言わば、鏡は吸血鬼だった。  言葉は鏡だった。書くことは、自分を言葉に移すことだ

小さな傷を書いてしまった。

 二日前に出来上がって我が家へ到着した本「恋愛詩篇 えっちゃんの夏」を一通り読んでみて気付いたことがある。156頁第二連四行目の「ここまま」は「このまま」で、「の」を「こ」と間違ってワードに打ち込んでいる。しかし、このミ

「恋愛詩篇 えっちゃんの夏」が完成しました!

 おおよそ八年半の歳月の中で、この作品は完成した。    「恋愛詩篇 えっちゃんの夏」 山下徹作 発行所 芦屋芸術 2023年4月1日発行    二〇一四年七月十九日、妻悦子が永眠した直後、私は病床日

闇に葬る

 立方体の白いプラスチックで出来た容器で、一辺二十センチくらいだろうか。確か十五個預かったと記憶している。  いつの話だろうか。高級ホテルで九年前に死別した妻と落ち合って、「これよ」、彼女の人差指の先、カウンターのような

亀、三か月の眠りから覚めた!

 去年の十二月に冬眠に入ったふたりの亀。ふたりとも元気でした!  朝、すべての家事を終わらせて七時半、バケツの中で腐葉土に潜って眠っている彼等を起こしました。水洗いして、池のレンガの丘の上に置いてやりました。  去年まで

今年初めて、亀の池をお掃除しました。

 明日は暖かくなりそうなので、そろそろカメさんたちを冬眠から起こそう、そう思いました。よって、朝の九時から亀の池をお掃除。  去年の十二月から雨ざらしだったので、ひどく汚れていて、何度も水洗い。  毎年のことですが、果た

「リヴィエール187号」を読む。

 永井ますみさんから詩誌が送られてきた。    「リヴィエール187号」 発行所 正岡洋夫 2023年3月15日発行    十四人の同人による十六篇の詩、六人の同人の六篇のエッセイが収録されている。

「現代詩神戸280号」を読む。

 永井ますみさんから詩誌が送られてきた。    「現代詩神戸280号」 編集 永井ますみ・今猿人・神仙寺妙 2023年3月10日発行    十六人の同人が二十六篇の詩を発表。また、船橋に転居した同人小

「芦屋芸術十七号」を六月十一日に出版したい。

 ふいに思いたって、「芦屋芸術十七号」を六月十一日に出版しよう、そんな気持ちになってしまいました。きょう、私の作品は出来上がりました。詩画集「脳地獄」という四十六篇の詩と挿絵で構成された作品集です。約百四十頁です。  十

別離と和解

 Ⅰ 別離   あなたが離れていくのがわかった   あなたを離した      Ⅱ 和解   今 あの人にサヨナラといった 生きるということは   死者と別れるこ

穴から煙が出ていた

脳の中では あの世も この世も なかった   右側では 足の裏がない亡妻が歩いていたが 左では 青いサンダルをはいたあの女がタコのように笑っていた ふたりの髪は入り乱れ 合流し 歪み あたりいちめん 亀裂が走っ

キラワレテしまった

何度も言ったじゃないか 帰って来るだけでいいから 家事はぜんぶボクがやるから   だから ダイニングテーブルの前に いつものように 座っているだけでいいのに   もうすぐ九年になるけれど 君はそれさえ

「佐川亜紀詩集」を読む。

 私たちはおそらく日常生活を送っていて、楽しかったり悲しかったり、あるいは苦しい時もあるだろうが、それぞれそれなりに生きているのだと思う。まさか自分が生きている生活の根底を凝視するなんてことは、まずあるまい、そうではない

ぐじゃぐじゃ

危険か どうか 問い合わせがきた   いつも 危険だ 脳は そう答えた   いっせいに 笑った 誰かが シーッ 制止した その一瞬   もう一度 あなたに 会いたい 赤い色が 浮かび 滲み 

未明

闇は 一様に 暗くはなかった あちらでも こちらでも 無数の 白い てのひら状のものが 波うち 騒いでいた さまざまな闇の部位をめくり 時に 向こう側を垣間見せた   わたくしはこれを未明と呼んでいる &nbs

おたがい もう 名前は はがれ落ちていた 無名の 一個の 生命と 生命が 激しく 愛しあっていた

何もなかった

死が近づいているのだろうか すべての顔が消えていた   一枚 一枚 はがれ落ちて 最後の一枚は 自分の顔だった

離脱体験

 これから語ることはまったく個人的な事柄なので、さまざまな一般論から物事を考えたり感じたりする方には、不向きな話だった。ひょっとしたら私だけの特殊な体験なのかもしれない。  前置きはこれくらいにして、先月の二十五日土曜日

ミモザの花

 きのう、お友達から黄色いミモザの花をいただきました。  さっそく、ダイニングルームの東窓の飾り棚にいまも祀っているえっちゃんとジャックとアニーの骨壺の前を彩ってくれました。  こまやかな情感が漂っている花、わたくしはそ

恋の花びら

音信が途絶えても まだメールに残っているもの   もう見えないのに アルバムで笑っているもの   別れてしまったのに 動画で語りかけてくるもの   ディスプレイにいつも咲いている白い花 紅い

回転幻想

もつれて 球形になって どこまでも 転がってゆく   手と足が四つ 頭が付いた首 二つ 胴体 二本 腕 四本 脚 四本 乳首 四つ くちびる ふたつ サイレンみたいに喚き散らして からまりあい もつれあい 一個

芦屋の親水公園、いま、菜の花が満開。

 我が家のご近所、親水公園東端にある花壇。お花畑に菜の花が満開。私も参加していますが、みんなのボランティア活動で、こんなに綺麗に咲いてくれました。  毎月第一日曜日の朝十時から、花作りをやっています。

楽しかったと言いたい

すべてを忘れてしまった 虫メガネで見ても 望遠鏡で見ても 何も見えなかった やはり ばくぜんとして こころも からだも どこにも見あたらなかった ただ つまさきにだけ 靴音を残したままで   それでもわたしは楽

「風のたより」27号を読む。

 伊川達郎さんからこんな文芸誌が送られてきた。    「風のたより」27号 発行/風のポスト 2023年3月1日発行    巻頭、小坂厚子の詩<~バアさんと「朝」に>から始まって、兄妹の会話を中心に組

この世にいない

 頭が混乱していた。    きのうか、数日前か、それとも二、三年前のことか、判然とはしなくなってきた。確かきのう書いたはずだと、最初そう頭の中は語っていた。数分後には、いやあの作品を仕上げたのは数年前だったよ、

後藤光治個人詩誌「アビラ」十三号を読む。

 後藤光治さんから詩誌が送られてきた。    後藤光治個人詩誌「アビラ」十三号 編集発行 後藤光治 2023年3月1日発行    この詩誌は、従来の構成通り、まず巻頭に「ロラン語録」、次に「詩作品」六

一か月の恋

 すべては灰色だと思っていた。    外界では、確かに無数の形態を持ちさまざまな色彩で彩られた物質や生命で満ち満ちているくらいのことは承知していた。けれども、外界に存在しているにぎやかな形態や色彩が私の内界の境

島が来る

島が来た わたくしに 島が来た   島が来て 初めてわかることがある   あらゆる人に 島が来る   それは無人島だ なにもない   一本の骨もなかった この島には