芦屋芸術|芸術誌・現代詩・小説

もう音はいらない。色をください。

やめてください。そんな声がした。どこで? 誰が? いつ、叫んだのか、皆目わからなかったけれど。

 

細菌、いや、違った、最近、耳が遠くなっているはずなのだが。一メートルくらいしか離れていない人がしゃべっていても、彼女の綺麗な唇が開閉しているのを、じっと見つめているだけ。

 

もう、これくらいでよそう。声は消えても、まだ、視野には、確かに年々狭くはなって来てはいるが、色が残っている。だから、色が欲しい。

 

とりわけ、ベージュの、あるいは、肌色の上に浮かびあがった紅が。

あの仄暗い池のほとりで、ゆっくり、開き始めた、紅の花びら。

 

だから

あなたに 色情狂と馬鹿にされてもいい どうぞご勝手に

 

何度も言わせてもらいます もう音なんていらない 色を 色をください

その 紅の花びら