外界と内界をつなぐ穴という穴はすべて施錠してある。玄関ドアも勝手口、テラスもベランダも、一階の窓、二階の窓、窓という窓もすべてだ。
だったら、何故、気配を感じる。Ⅿひとりじゃないか。一人暮らしじゃないか。犬猫も飼っていない。ましてネズミやゴキブリを買うなんて。いや誤字ってしまった。飼うなんて。
それともⅯという人体は二つに分解できるのか。ひとりがふたりになる場合もあるのか。そんな馬鹿な。だけど確かに昔読んだ本でひとりがふたりになってまったく違った行動をしているお話があったっけ。それじゃあ、Mも西瓜みたいに三つにも四つにも分割出来たりして。
でも、あの気配は。夢じゃない。ベッドに寝転んだ時だけ出てくるんじゃない。歯を磨いている時だって、洗面台の鏡の後ろに立っているんだもん。時々ドライヤーを左手に持って風呂上がりの濡れたⅯの頭髪を乾かしてくれたりして。
実際、とても親切な奴なんだ。だからⅯは地区の民生委員に連絡を取ってはいない。まして警察に相談なんてしていない。顔にボンヤリ靄がかかって正体不明だけれど、優しい女性に違いない。きっとリカちゃんかも。リカちゃんとふたりっきりかも。