芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

空きカン

公園を歩いていた。

見覚えはなかった。

より正確に言えば、公園に違いないと思いながら歩いていた。

あたりは灰一色だった。

片隅にビールの空きカンがひとつ、転がっていた。

私はそれを拾いあげた。

数歩先にも転がっていた。

こうして私の手に三缶が握られていた。

私は我が家のいつもの戸棚から大きなビニール袋を取り出した。

公園を歩き続け

あちらこちらに転がっているビールの空きカンを拾い続けた。

誰もいないが、

空きカンだらけだった。

歩き続け、

拾い続けた。

私はレストランを出た。

くちびるから舌を出すように

灰色の中空の裂け目から 何枚も

ビール代の請求書が出てきた。

私はビールなど飲んでいない。

ただ善意でビールの空きカンを拾っただけだ。

けれども灰色の中空から、もう百枚近い請求書がズルズル出て来た。

「空きカンで破産だ!」

どんどん請求書は増え続けた。

中空のずいぶん大きくなった裂け目からズボンズボンと雪崩れ落ちてきた。

私は請求書で叩きのめされ、公園の片隅で、空きカンになって転がった。