芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

アンデルセンとボク

アンデルセン童話全集第五巻(高橋健二訳、小学館)を読みました。これでアンデルセン童話全集全五巻156話をすべて読み終えたわけです。訳者の丁寧な解説も含めて、ほとんど以前読んでいたんですが、ふたたびスバラシイ経験をして、たとえば行きたくってなかなか行けなかった夢と子供だけの国を旅して帰国した気持です。

この全集を読んで、感想は? と聞かれたら、こんな一言でボクは答えます。それはアンデルセンの言葉の源泉にかかわることです。彼の心にはいつもこんな言葉が住んでいました、そうボクは答えます。つまり、

こころの貧しい人たちは、さいわいである、
天国は彼らのものである。

悲しんでいる人たちは、さいわいである、
彼らは慰められるであろう。

これら「福音書」に書かれたイエスの言葉、特に「天の父は、悪い者の上にも良い者の上にも、太陽をのぼらせ、正しい者にも正しくない者にも、雨を降らして下さるからである。」、このイエスの言葉の変奏曲は彼の作品のあちらこちらにまるで夜空の星座のようにキラキラ反響するでしょう。

アンデルセンは同時代のデンマークの「死にいたる病」の哲学者キルケゴールには批判的だったようです。どうやらキルケゴールもアンデルセンには批判的だった。おそらく彼はアンデルセンの作品は世間に認められたくって仕方ないセンチメンタルな男が作った甘ったるい砂糖菓子で、本来的なキリスト者の作品ではないと考えたのでしょう。あるいは、そうだったかもしれません。逆にアンデルセンにとっては常に信仰への実存的決断を迫るキルケゴールの哲学に対して、ある作品の中でもちょっと皮肉って書いていますが、人間のことしか考えない狭量な男だ、そう考えていたんじゃないでしょうか。

いずれにしてもアンデルセンには、人間だけではなく、花も鳥も雲も虫もデンマークの荒涼とした沼もあれ騒ぐ海も空もそしていかなる動物も、すなわち生きとし生けるものすべてが同じ神の恵みのもとに生かされて生きている、そんな単純きわまりない信仰を、心の底にずっとあたためて生きていたといって決して過言ではないでしょう。

個人的な事情になって恐縮いたしますが、ボクの人生にとってはアンデルセンもキルケゴールもおふたりとも、長い間お付き合いいただいて、トテモステキなお友達で、ホントにいい思い出になりました。これからもずっとお友達でいてください。あなたに出会えたことに感謝しています。