芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

カアカア、不憫。

 カアカアは、毎日、三回ないし四回、我が家のウッドデッキやらウッドフェンスに立って沈黙していたり、あるいは、おしゃべりする。

 ところが、八月十五日と十六日は、顔を見せない。私は困惑して、我が家の周辺を探索したが、姿はなく、時折、カアカアがよくいたお隣の裏庭の木の枝に、他のカラスがいる。私が「カアカア」と呼びかけると、一目散に飛んで逃げる。

 カアカアは、カラスの身体障害者である。小さいときに仲間のカラスにイジメられて、右羽根と右脚を損傷、飛行能力を喪失し、二~三メートル飛び上がって家づたいに移動したり、庭や路上を足を引きずって歩いている。

 私はとても不憫になって、カアカアが我が家へやって来るたび、ご飯を食べていただく。ご飯といっても、私が朝ご飯と昼ご飯に食べているパンや、我が家の十九歳になった愛猫アニーのキャットフードに過ぎないが。というのも、ボイルした鶏肉やチーズなどを差しあげてみたけれど、おいしそうな素振りをしなかった。キャットフードなら、うれしそうに食べている。

 話をもどして、この十五日、十六日にカアカアが姿を見せなかった理由は、他のカラスが我が家周辺に侵入したからだ。とにかく、以前から、カアカアはご飯を食べている時でも辺りに気をつかい、オドオドしている。現に、一週間ほど前、こんなことがあった。……私がちょっと目を離したスキを狙って、他のカラスがご飯を横取りし、カアカアは長男の自転車のサドルの上におびえて立ち尽くしていたことがあった。

 十七日にまた帰ってきた。でも、やはり、どこかオドオドしている。きょうは四回訪問してくれた。余程怖かったのだろう、まだオドオドしている。イジメは、人間に特有の弱者破壊志向だとばかり思っていたが、カラス世界にもイジメってあるんだ、カアカアの食事が終わるまで、心配で、汗だくになって、私は炎天下の庭にぼうぜんと立っていた。