芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

その女

 午前四時。いつのまにか夏が来ていた。窓外で一匹の蛾のようなものがあばれていた。
「息が止まっています」
「アア、ソウデスカ」
 死体を前にした、看護師と彼の最後の会話だった
 その女が残したものに、三本の百日紅がある。彼女は、鉢植えから始めて、徐々に育て、ある梅雨の昼下がり、庭に植樹した。
 夏。……紅、紫、純白。三色のたくさんの花で賑わっている。……午前四時が来て、その女はこの世から出た。

 唇をわずかに開けた闇の夏