芦屋芸術|芸術誌・現代詩・小説

破裂音が耳をつんざいていた

 ほとんど―ここでMの思考は止まった。どうしてこんな副詞が口をついて出て来たのだろう。

 ここから先は闇に消えていた。頭には何も浮かんでこなかった。いや、待て。私はすでに死んでいる―こんな言葉が出てきた。

 だったらこうじゃないだろうか。現在のMの思考はこんな状況に至ったのではないだろうか。

 

 ほとんど、私はすでに死んでいる。

 

 つまり、私はほとんど、あるいは、既に、この世にいない。

 Mの思考はやっとここまでたどり着いたのだった。けれども彼はさらに問い続けた。それならば、私はこの世にいないならば、私は思考するのだろうか。言い換えれば、死者は思考するのだろうか。例えば、千年前の死者が。

 もしそうならば、千年前の死者が語り始めるのならば、千年後の死者も、いま、ここで、語り始めるのじゃないだろうか。Mの頭にまざまざと浮かび上がってきた。千年前の私とリカ、現在の私とリカ、千年後の私とリカが、いま、ここで、午後の光に影を落として、おしゃべりをしている、愛を語りあっている……

 

 紅。緑。紫。そして、リカの耳たぶや足首、ふくらはぎ。頭の中に厖大なカオスが、さまざまな色彩やあの女の体のすべての部位をヌメヌメ・ヌンメリ・ヌメリン光らせボジャリン膨らんできた。死の汁があふれ出した。ああ。もうすぐだ。もうすぐこのカオスは爆発するだろう。その先へ。Mの思考は走った。

 

 この容器、カオスを詰めたこの頭が爆発した。紅や足首が汁になって飛び散った。破裂音が耳をつんざいていた。