芦屋芸術|芸術誌・現代詩・小説

今夜はここまで

少し歪んでいるんじゃないか

そんな声が聴こえた

誰だ そこにいるのは

思わずMは叫んだ お前は 誰だ

 

追いつめられているのは確かだっだ

それは否定しない

だが いつから あなたは追いつめられ始めたのか

この問いに Mは答えることは出来なかった

だから 追いつめられているのは 妄想ではなかったか

 

だったら こんな妄想 いったい誰が作ったんだ

 

こんな声が聴こえた

それはね こうだよ

 

一匹いれば 百匹いるって 知ってる?

何だ それ

ゴキブリ

家の中に一匹見つかれば 少なくとも 百匹いる

深夜

寝静まったころ

出てくる

百匹

いや それ以上

ウジャウジャ

徘徊 顔や足首 左耳

あちらこちら 這いずり回っている

 

わかるか この事実を直視しろ

迫害されているものが

迫害していたものを 迫害する

どうだ

これが お前の妄想の正体だ

 

この七十七年間

さまざまな声が

Mの頭を去来してきた

あしたは どんな声がやって来るのか

多少 楽しみでもあるのだが

 

じゃあ 今夜は これくらいにしておこう