芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

Out of mode

きのう、グリム童話全集第1巻(高橋健二訳、小学館)を読み終えました。

56篇のお話と、1812年刊行された初版本に掲載されたがペローの同名のお話の重複と考えられ、再販以後除外された「長ぐつをはいた雄ねこ」が収録されています。とても丁寧な解説によると、初版発行の翌年、1813年10月16日から19日まで続いたライプチヒの戦いでドイツ軍は連合軍と共に、ナポレオンに対して決定的な勝利を収め、自国を解放しました。この翻訳が出版された昭和50年当時では世界で聖書の次に読まれていたといわれる書物が、そんな重苦しい状況下で出版された事実に思い至れば、少なくとも僕には大切な指針となります。

これらのお話の中には、おそらくほとんどの日本人でも一度くらい読んだと思われる「ヘンゼルとグレーテル」、「灰かぶり」、「赤ずきん」、「いばらひめ」などの他に、例えば「ねずの木の話」のように一流のシュルレアリストでさえ書けないような、極めて簡潔で本格的な「黒いユーモア」も収録されています。ここで一言だけ言わせてください。ご覧の通り、少なくとも素晴らしい文学を楽しむためには、日本中心主義や排外主義ではダメです。さて、きょうから、グリム童話全集第2巻を読み進んでいきます。

同時並行して、僕は現在マルキ・ド・サドについて考えています。最近読んだ本は、サドの著作では、「ソドム百二十日」(澁澤龍彦訳、河出文庫)、「美徳の不幸」(澁澤龍彦訳、角川文庫)、「食人国旅行記」(澁澤龍彦訳、河出文庫)、「新ジュスティーヌ」(澁澤龍彦訳、河出文庫)、「わが隣人サド」(クロソウスキー著、豊崎光一訳、昌文選書12)、以上です。ほとんど昔読んだ本を再読しています。私事になりますが、僕も六十代半ばになりまして、さまざまなものに対する好みがとてもガンコになってきたな、そう思います。そしてガンコになればなるほど、なぜか生きている時間が白く輝いてきます。来年の春頃まで、サドを中心に思索を集中します。