芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ボルネオ島からの帰還

俺たちは腰まで泥水につかりながら、頭にリックを載せて、死の行進を続けた。俺たちのほとんど右脇を巨大な水トカゲが泳ぎ過ぎた。山下旅行社のオプショナルツアーによれば、このジャングルの奥に、おおよそ7000年前の先住民がフィリ

ボルネオ

あしたから5日間、愉快な仲間三人でボルネオ島のコタ・キナバルに行ってきます。熱帯雨林の島。 ジャングルではオランウータンやテングザルが。ボクタチは頭の上からスコールを浴びて。 友達がボルネオ島で永住宣言して家さえ建てたと

TIBET BURNING

おそらく雲海は高度6000m辺りをいちめんに覆っているのだろう、そこからヒマラヤの山々が突き出して白く輝いている。カトマンズには12時45分着の予定だから、今はほとんど正午、そんな純白世界の中をボクとそのワイフを乗せてタ

ナガルコットの丘

まだ日没には半時余りあったが、屋上の展望台は風が吹き抜けていて、手摺りに背をもたせて立っている若い女の長い髪が揺らめいている。その乱れた髪の中からボクを見てニッコリ笑った。 「どこから来たの」 「東京」 やはり日本人だっ

ネパール

あしたから8日間、ネパールへ行ってきます。 一度ヒマラヤが、ただそれだけですが。カトマンズ、チトワン、ポカラ、ナガルコットの順に旅します。カトマンズではヒマラヤ遊覧飛行、墜落するかもしれませんが、ごく最近も墜落していまし

田中久雄新詩集「誤字につづく誤字へ」

芦屋芸術から、田中久雄の新詩集「誤字につづく誤字へ」が出版されました。 詩人の第一詩集「美空」は1994年3月15日に発行、いま、あれから19年の歳月を経て、満を持して発表された作品群です。読者は、詩人の深淵からの独白に

マチューリン作「放浪者メルモス」

僕がマチューリンという名を知ったのは、ボードレールが何度か言及しているからであろうか。「放浪者メルモス」という作品には直接関係しないが、ボードレールが生前よく口にした作家は、ディドロ、ラクロ、ホフマン、ゲーテ、ジャン・パ

「芦屋芸術6号」、そろそろ誌名変更か。

6月頃に「芦屋芸術6号」を出す予定です。まだ原稿は一行も集まっていませんが。 3月3日から8日間、妻と二人で個人旅行でネパールに行きます、彼女がどうしてもヒマラヤを見たいんだから。それから、ボルネオ島のコタキナバルに友人

「彼方」

どうしてユイスマンスの「彼方」をいままで読まなかったのだろう。40年前後昔の話になって恐縮してしまうけれど、ユイスマンスに関して言えば、確かに僕は2冊の本を読んだ記憶がある。 「さかしま」(澁澤龍彦訳、昭和48年5月10

僕の中の「ボードレール」 前編

「美」は「真」よりも高貴である……これは1860年5月発行の「人工の楽園」に書かれたボードレールの言葉である。ときにボードレール39歳。 これから僕が引用するボードレールの言葉はすべて下記の翻訳書を参照していただきたい。

詩誌、四冊を読む

豹樹Ⅲ No.17     2012年9月30日発行 KAIGA No.92     2012年11月30日発行 ココア共和国 vol.11  2012年12月1日発行 すてむ vol.54     2012年12月10

ネクロフィリア

ネクロフィリアは言うまでもなくNECROPHILIAで、研究社新英和大辞典では「死体性愛」と翻訳されているが、原題のNECROPHILEはクラウン仏和辞典で「死体愛」になっている。死体性愛か死体愛か、いずれを好むか、趣味

現代絵画のいま。グレコ展。

11月18日夜、エジプトから帰国して、ずっと身体の調子が良くない。帰路がカイロから深夜ドーハ経由のカタール航空だったので、といってカイロから直行便のエジプト航空だとイスラムの戒律により搭乗中いっさい酒類は出ないし、疲労と

蜃気楼

はじめて蜃気楼を見た。エジプトのアスワンからアブシンベルへの途上、車窓から砂漠に広がるオアシス。水面には黒い島影さえ浮かんで……砂漠を進軍する部隊が飢えと渇きに苛まれ、前方に現れたオアシスに向かって隊長の制止も聞かず一人

ボードレールとその周辺

ボードレールについて考えている。1960年代に人文書院から出た全集を第三巻まで読んで、いま、第四巻の美術評論を読みすすんでいる。昔、つまり四十年余り前にこの四巻本の全集を買ったが、第一巻と、第二巻の人口の楽園や短編小説、

エジプト

11月9日から10日間、エジプトへ行ってきます。僕はあちこち海外へ行ってますが、丁度2年前の10月19日に中国へ行った時、まだ記憶に新しい、それとももう忘れちゃったか、2010年9月7日の尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件が

「死の舞踏」の訂正

僕はこのたび発表した「死の舞踏」によって「完成された虚無の世界」を「一個の言葉の具象物」としてこの方面の愛好家の卓上へ置こうと意志していましたが、そしてボードレールがテオフィル・ゴーチェを批評しながらおそらく自分を語った

秋亜綺羅詩集「透明海岸から鳥の島まで」

普通、辞書類と違って、詩集は1頁目から最終頁に向かって波がうねるように終焉していくものだが、この詩集の場合、まず「あとがき」から読み、その後、最初から最後に向かって波打って欲しい。それとも、「あとがき」に至って「そうだっ

詩的現代2号

僕には読みだしたら止まらない傾向にあるのか、鈴木章子さんからいただいた詩誌を一気に読んでしまった。やはり言葉はおいしい料理で、噛んでも歯は折れないし、読後、おいしかったな、そんな高揚感だけが残る。 季刊詩的現代2号第2次

田中恭吉展

生誕120年記念として9月1日から10月14日まで田中恭吉の作品約300点が和歌山県立近代美術館で展示されている。 48年前、まだ中学三年生だった私は、夏休みに近所の市場の片隅にある小さな本屋で立ち読みをしていて、角川文

「死の舞踏」が出来ました

僕の作品集「死の舞踏」が出来上がりました。この作品集は芦屋芸術1号から5号までに発表した8作品に加え、快傑ハリマオ8号に寄稿した作品、未発表作品2篇、合計11作品で構成されています。僕の書いた挿画5点も一度ご賞味ください

最近読んだ詩誌7冊

寄贈された7冊の詩誌を読みました。 布29号      2012年4月30日発行 知井14号     2012年5月25日発行 ココア共和国    2012年7月7日発行 サルとび43号   2012年7月20日発行 快

作品集「死の舞踏」

新しい作品集「死の舞踏」を9月2日に出します。 <新>といっても、この2年余りに出した芦屋芸術1号から5号までに掲載した8篇の作品、快傑ハリマオに寄稿した「人泥」という作品、 それに未発表の作品「進軍」「三月の指」の2篇

黄山

雷雨が去った直後、無錫蘇南国際空港に着陸した。7月7日午後2時過ぎ。この時期、江蘇省南部や明日訪れる杭州では雷降雨が多い。日本では雷雨だが、中国の空港の掲示板では雷降雨と表現されている。日本の梅雨に似て、当たり前だが東洋

ロイヤル英文法

先日、ロイヤル英文法を読み終えた。この本は、高校時代の息子が残していったもので、ロフトを整理していたら、出てきた。色あせた英和辞典も出てきたので、わからない言葉はこれを使って調べることにした、高校時代の彼と同じ状況で。

駒井哲郎Retrospective

閉館まぎわに訪れたのをいまでも鮮やかに覚えている。その頃、ある地方の美術雑誌社に関係していた僕は、大阪の高宮画廊で催されていた「駒井哲郎版画展」を取材するために街角が闇に沈もうとする刻限に。 地下への階段を降りると既に照

芦屋芸術5号ができました

芦屋芸術5号ができました。同人誌としては最後の本です。 今後、6号からは、アールデザイン出版、そして僕個人が編集します。ですから掲載する作品は僕個人の好悪が基準です。一切のナレアイを排除して、来年から再出発します。半年余

「祈禱詩篇」から

八年前の十月の真昼、愛犬ジャックと芦屋総合運動公園を散歩していた時、一瞬、世界がセメント状に変色し凝固するやいなやいきなり粉になってふわふわ撒き散らされて消滅するヴィジョンが、私の眼前にやって来た。そして同時に頭の中に粉

芦屋芸術第5号

3月に出す予定だった「芦屋芸術第5号」は、僕の個人的な理由により6月1日に発行します。これは確定です。 原稿の編集も終わり、装丁を荒井麻美にお願いして、すべて印刷会社に回しました。こ れはまだ予定ですが、今年の10月1日

アール・ブリュット

三月の初旬、K子さんからいただいたチケットで、「解剖と変容」および「ドキュメンタリー映画『天空の赤』」(兵庫県立美術館)を見た。実際は、「解剖と変容」は別会場になっていて、それに気付かず、チェコの作家プルニとゼマーンコヴ

ユダヤ人

おそらく私が「イスラエル」という言葉を知ったのは、こんな文章から始まったのではないかと思う。新潮社版のカフカ全集第三巻。私が持っているのは昭和43年6月25日第8刷だが、その中に挟まれていた月報Ⅲあたりではなかったか。少

最近読んだ三冊の詩誌

最近読んだ三冊の詩誌。 季刊ココア共和国 vol.9    2012年3月1日発行 さるトビ 四拾壱        2012年3月26日発行 すてむ52号          2012年4月10日発行 「ココア共和国」は秋

旧約聖書外典

3月18日夜遅くイスラエルから帰国して数日間、僕はぼんやりして過ごした。それまで好天に恵まれていたが旅行の最後の三日間、エルサレムは冷え込み、雨がぱらつきはじめ、降ったりやんだりしてる。爪先から喉元まで凍り付いた気持ちに

ゴラン高原

3月10日、11日の2日間、僕はイスラエルのゴラン高原でキブツが経営するハゴシュリムホテル(HAGOSHRIM HOTEL)に宿泊した。北はレバノン、東はシリアに接しているのだが。ここからバニアス自然保護区(Banias

詩集「黙礼」から

おおよそ2000年前、処女マリアから生まれ、ゴルゴタの丘で十字架につけられたキリストであるイエスという男、僕は長い間、この「キリストであるイエス」につきまとわれ、あるいは悩み、あるいは笑い、あるいは困窮してきた。 来月、

イスラエル

僕がこの世に対するものの見方・考え方としてもっとも強く影響された本は「聖書」と「資本論」だと思う。また、「聖書」の読み方は滝沢克己氏から、「資本論」のそれは宇野弘蔵氏から、二十歳前後の時に多くを学んだ。 誤解を恐れずに敢

カジュラホ

2011年11月28日(月)。カジュラホの寺院群を観る。よく言及されるラクシュマナ寺院やカンダリア・マハデーヴァ寺院などの壁面に描かれた数多くのエロティックなミトゥナ(男女交合)像のレリーフ。一般論で言えば、これをヨーガ

ベナレス

ベナレスについて多くは語るまい。去年の11月27日、ただ一晩ラマダプラザホテルに泊まって通り過ぎただけだから。 確かブッダ・ガヤーで覚醒した仏陀がベナレスへ向かったように僕等もそこへ向かった。その途上、サールナートで仏陀

イスラエル

三月にイスラエルに行ってきます。 ベツレヘム、生誕教会、ガリラヤ湖、5つのパンと2匹の魚の教会、ナザレ、オリーブ山、エルサレム、ヴィアドロローサ、聖墳墓教会……それから旧約。べエル・シェバ、ロトの塩柱、クムラン、ダビデの

芭蕉俳句集

年末から正月にかけて「芭蕉俳句集」(岩波文庫1978年3月20日第11刷)を読んだ。芭蕉の発句982句及び存疑・誤伝の参考資料で構成されている。 こんな句があった。天和二年(1682年)、芭蕉39歳の作品。天和二年といえ

快傑ハリマオ8号

12月20日発行の快傑ハリマオ8号を一読した。 全体を見渡してとても賑やかな居酒屋の忘年会が目に浮かぶようだった。 特に「編集後記その他」は発行人がかつてやりとりしたさまざまなレターなどで織りあげた刺繍入りドテラ姿で、場

翻訳寸感

最近、エリオット選集第四巻(彌生書房昭和43年2月20日発行)に目を通していて、その274頁、上田和夫訳の「バートン・ノートン」でギリシアの哲学者ヘラクレイトスの引用を読んだ。 <ことば>は公共のものであるにかかわらず、

藤井章子の詩「夏祭り」

「すてむ51号」(2011年11月30日発行)の32頁から34頁まで。藤井章子の詩について。 第1行初頭「闇のはじまりに」、最終行末尾「土のそのしたにある土」。これら闇と闇の隙間に「夏祭り」は生成し、一瞬の賑わいを織りな

知井13号

「知井」は名古きよえの個人誌である。13号は平成23年10月25日発行。執筆者は名古きよえの他、山崎佐喜治の詩「ふるさと」、神田さよの詩「時の目」、名古忠行の詩「無題」、そして<心に残る詩>として相馬大の「キリハタリ ヒ

ガンジスまで

11月26日にインドに行ってきます。わずか8日間の旅ですが。 デリーからベナレスへ。数知れぬ死者が流れる河ガンジスへ。 ベナレスの陽の下に坐し 平伏して 印を結び ついに合掌に至る  

奈良

今夜で、10月も終わる。ご近所のK子さんから招待券をいただいたので、昼間、家内と二人で奈良国立博物館で催されている「第63回正倉院展」を見学に。月末の月曜日なのになんという人混み。 同じ博物館の「なら仏像館」にも立ち寄る

「芦屋芸術第4号」について

どうも評判が悪いらしい。ケバケバしい表紙からして、もっとシックにしなけりゃ……そういうご批判をいただいているらしい。 余談ではあるが、澁澤龍彦は小学生の頃、白地に黒の日の丸を書いて、担任の先生からこっぴどくおしかりを受け

インドに行ってきます

あしたから8日間だけインドにいます。いま、インドは乾季ですからホットな季節です。あとの季節はホッターかホテストです。じゃあ、さようなら 仏陀は 六年間 苦行して 苦行は虚しい 結局 苦行では悟れないと悟った つまり ダマ

高橋馨詩集「詩の途上で」の追記

大切なことを失念しました。 この詩集の発行者は以下の通りです。 発行所 港の人 神奈川県鎌倉市由比ガ浜3-11-49 発行者 里館勇治 定価(本体) 2,000円 インターネットで検索すればすぐわかります。私の解説ではほ

高橋薫の詩集「詩の途上で」(続)

承前として、だがこんな調子で続けていっていいのだろうか、深夜、ベッドに仰向けに寝転がって、黒い天井を見つめ、僕は考えた。しかし熟考するには人生は余りに短い、ならばすべてよし! 僕は自分の背中に鞭打ち、立ち上がった。 第7