芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ゴラン高原

3月10日、11日の2日間、僕はイスラエルのゴラン高原でキブツが経営するハゴシュリムホテル(HAGOSHRIM HOTEL)に宿泊した。北はレバノン、東はシリアに接しているのだが。ここからバニアス自然保護区(Banias Nature Reserve)で遺跡や小川が流れる緑地に親しみ、岩にたわむれるRock Hyraxまで見た。この小動物は、まず一匹が岩壁の穴ぐらから出て辺りをうかがい、その後、四五匹そろってぞろぞろ出てくる。

ノブ(Nov)でフラワーウォッチングもした。確かにかつてイエスが語った野の花(マタイ6-28)がそこにはあった。それは乱れ咲くというものではなく、つつましくそこに存在している、そんな風情といえるのだった。余談ではあるが、旅行社の話だとここは国立公園となっているがニ種類の地図で探してもただNovとなっている。記憶をたどれば道路端に自然保護区と書かれた板を棒杭で立てかけた小さな看板があったような気がしないでもないのだが。

ゴラン高原ののどかな田園風景。日本で喧伝されていた紛争の影も形もなかった。北の国境にそびえるヘルモン山(Mt.Hermon)、北東のラム山(Mt.Ram)は白銀に輝いている。僕のような観光客でも安心して散策できるステキな場所、ゴラン高原。だがしかし、例えばNHKの報道などを見ていると、すぐ東隣がシリアだからか、とても緊張した面持ちで、マイク片手に、「ゴラン高原からお送りしました」、生命の危険を冒してまで報道しているといわんばかりである。

日本国民にそんな印象を与え続けている報道に騙されてはいけない。逆に言えば、日本ほど安心安全な国はないのだと、日々洗脳するかの如く。報道に関して、もう一言。イスラエルに数十年在住している日本人ガイドから聞いた話だが、東日本大震災の時、坂道を駆け上る青年の後方から救いを叫ぶお年寄りがいて、その青年は老人を救おうとして引き返し、もろともに津波にのまれた映像がイスラエルでは流れたが、おそらく日本ではカットされているのではないか。青年は引き返さなかったら助かっていただろうに。日本の検閲の基準はどこにあるか。国民の知る権利とはいったい何か。それを決定しているのは政府かマスコミか国民自身かあるいは。ところで国民自身とはいったい何か。また余談になるが、この話を聞いて僕はそぞろ創世記19章24-29の言葉が浮かび上がった。ロトは後ろを振り返った妻を捨てて自らを救い、アンモン人の先祖となった。だがしかし日本人は世界で一番いい場所に住んでいるかア。

イスラエルの収入源のトップは観光収入である。つまり、国外から多くの人々が訪れているわけで、危険地帯であるなら、いくら三大宗教の聖地だといっても、日々安穏に生活している欧米人までが、僕が実際に出会った限りではあるが、とりわけ中高年が多く見かけられたのだが、あるいは死海のリゾートホテルで保養したり(死海の西はイスラエル、東はヨルダンである!)、あるいはエルサレムやイエスの生誕地ベツレヘム(パレスチナ自治区!)などの遺跡を観光してる。結論すれば、イスラエルは日本人がマスコミ報道で先入見を持っているほどの危険地帯ではないのだ。イスラエルではユダヤ人とアラブ人が共生しているのだ。

こんなことまで言いたくはないが、ついでに言ってしまおう。日本の新聞の三面記事を毎日読んでいると凶悪犯罪事件ばかりが印象され、日本では警察に助けていただかないとコワクて安心な生活は出来ないと思ってしまう。これも現在の秩序を維持することの旨みが心底から染み付いた連中の潜在的な民衆洗脳といってもいいのかもしれない。だが残念ながら日本はほんとうにコワい場所になってしまった。<フクシマ>以来、賢明な外国人にとって日本は「危険情報」の第三段階「渡航の延期をおすすめします」に該当するのだろうが、日本の学者たちがこぞって近未来に到来すると予言する大地震が来て別の原発が破壊されたら日本は確実に世界から「危険情報」の第四段階「退避を勧告します」と宣告されるに違いあるまい。その時、日本民族の海外移住が始まるはずである。もちろん、放射能汚染をラジウム温泉のように健康にいいと主張している知識人はもっと放射能を!と歓呼するだろうし(実際は彼等が真っ先に逃げ出すかもしれないがそれはさておき)、移民する費用を持たない貧しい人々はこの汚染された日本国土に棄民される。

三月の風が吹くゴラン高原で僕は鼻歌を歌った、欧米人は人間中心主義なんだが、日本人は日本人中心主義なんだあ。