芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ネクロフィリア

ネクロフィリアは言うまでもなくNECROPHILIAで、研究社新英和大辞典では「死体性愛」と翻訳されているが、原題のNECROPHILEはクラウン仏和辞典で「死体愛」になっている。死体性愛か死体愛か、いずれを好むか、趣味の問題だろう。

「ネクロフィリア」(ガブリエル・ヴィットコップ作、野呂康・安井亜希子訳、国書刊行会2009年5月22日初版第一刷発行)

ある本を探していて、その本の隣に「ネクロフィリア」があった。ビニール袋に入っていて中味は確認できない。けれど直感でこれだと思い、買ってしまった。きのう読んだが、名著だと言っていい。わたくしは長年鍛えられた一種の動物臭覚があり、これだと直感した作品はほとんど名著である。もちろんわたくしにとって「名著」とは、この短い人生でわたくし自身がとても快感する本をいう。

「ネクロフィリア」の中身については書かない。2009年に初版が発行されて、未だ大書店の片隅の棚に一冊だけ取り残されているから、おそらく売れ筋ではない。だから中味は言わない。わたくしはガブリエル・ヴィットコップという女流作家をこの作品で初めて知った。この作家の詳細も「あとがき」を読んでいただきたい。この作品はある死体愛好者の手記だとだけ言っておく。さらにもう一言すれば、完成された虚無の世界、なんという純化された引きこもりの世界だろう。読後、腐った兄妹の死体のどろどろになった黒い粘液がわたくしの全身にまで。