芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

夜の海

なるほど この坂は なだらかではあるが いつまでたっても 下降するばかりだった けっして 全身 おおげさな身ぶり手ぶりで 崩壊するのではなかった 崩壊する前に すでに沈んでいるのだった 両手 両足に 海の藻がからみついて

ダンテの「神曲」再読

 昔、半世紀前、二十歳頃に読んだこの本に、おそらく少なからず影響されていた、私はそう振り返る。こんな個人的な話を続けてオシャベリしてゆくが、私は二十二歳の時に書いた「ハンス・フアプーレ」という作品を去年の十月二十五日に発

言葉と靴

言葉も靴も 人間の脳から生まれた 靴は 足の数だけ必要なので 大量生産しなければならなかった 一方 言葉は 無数の脳の中で さまざまに変化して生きてきた

私は出かけた

私は出かけた 上から五十年前の武庫川を見下ろしていた もし帰れなくなったらどうしよう そんな不安な気持がした 芦屋の我が家から 西宮の武庫川まで 一瞬だった 私は臆病になった 早く帰ろうとした いや もう帰りたいと焦燥し

海の上の星

 この十一日の木曜日は、上弦の月と木星が最接近するはずだったが、あいにく、天候に恵まれなかった。翌十二日もあいかわらず曇っていて、ときおり雨が降っていた。  きょう、十三日、朝から晴れ間が出ていたが、午後二時くらいには曇

月と金星が遊んでいた。

 きのうの天気予報では、今夜は曇り、そして雨だった。  ところが、天の五割くらいはあちらこちら雲が浮かんで空を覆っているが、開いた空間には、木星や土星、夏の大三角ばかりか、南西の空に月と金星!  夕方の五時半くらいから芦

月と金星の夜

 きょうは立冬だといっても、このところ暖かい日が続いている。  あすは、月と宵の明星が最接近する日だが、どうやら空は曇りそうだ。一日早いけれど、午後五時過ぎ芦屋浜に出て、暗く沈んでいく黄昏の空を仰いだ。  南西の空に月と

夜の池

精神が崩れ落ちるのが見える   かさぶたははがれ   両眼だけが浮かんでいる   松が二本 倒れていた

ダンテの「新生」

 なぜこの作家の作品を読み直そうと思ったのか、理由は二つある。  まず、過日読んだイヴリーン・アンダーヒルの「神秘主義」の中で、神秘主義詩人として高く評価されていたこと。  次に、二十代半ばで愛していた女性ベアトリーチェ

エックハルトの「神の慰めの書」再読

 先日、「エックハルト説教集」を読んでみたが、確か同じ著者の本がもう一冊あったはずだ、本棚を探して、それを抜き出した。    「神の慰めの書」 M・エックハルト著 相原信作訳 講談社学術文庫 昭和60年6月10

「エックハルト説教集」再読

 以前この著者の本を読んだのは、おそらくハイデガーがこの著者に言及していたためだったのか、その流れの中で読んだのだろう。  このたび、再読した。それは、先日読んだイーブリン・アンダーヒルの「神秘主義」という本に詳しく紹介

カアカアふたり、毎日。

 ここ一ヶ月余り、カアカアたちは、朝六時頃から午後四時頃まで、毎日五回くらいやってくる。カアカア「たち」というのも、いつもふたりで連れ立って、ご飯をオネダリにくる。我が家の庭のウッドフェンスに女ガラス、シマトネリコの枝に

イブリン・アンダーヒルの「内なる生」

 この著者の「神秘主義」という本を、私は数日前に読んだ。極めて興味深い内容で、神の愛から隣人愛へとあふれ流れる生命を、主にキリスト教の聖人達の言葉や実践を通して丹念に描いたものだった。同じ著者の本をもう一冊手にした。 &

イーブリン・アンダーヒルの「神秘主義」

 過日、ベルグソンの「道徳と宗教の二源泉」を読んだ時、この本が紹介されていた。早速、購入して読んだ。    「神秘主義」 イーブリン・アンダーヒル著 門脇由紀子 他訳 ナチュラルスピリット 2016年9月23日

ジョン・クラカワーの「空へ」

 東京のAさんからのおすすめで、この本を開いた。    「空へ」 ジョン・クラカワー著 梅津正彦訳 山と渓谷社 2019年12月25日初版第三刷    この本の副題は、「悪夢のエヴェレスト 1996年

とうめい体

もうろうとして もつれた 無数の糸 指 足 頭髪 めくれ はがれ もつれ やがて 無数に こきざみに けいれんして とうめいに うすれていく

ベルグソンの「道徳と宗教の二源泉」

 葉脈のように横に広がっていく読書が私は好きだ。ずっと広がっていく先は、ほとんど未知の世界であって、あちらこちらでさまざまな人たちの心の喜びや苦しみが光っている。とてもステキではないか。    「道徳と宗教の二

「現代詩神戸 274号」を読む。

 永井ますみさんから詩誌が送られてきた。永井さんの詩を中心にした同人活動には感服する。    「現代詩神戸 274号」 編集 三宅武・永井ますみ・田中信爾 2021年9月10日発行    十八人の詩人

「リヴィエール178号」を読む。

 永井ますみさんから詩誌が送られてきた。    「リヴィエール 178号」 発行所 正岡洋夫 2021年9月15日発行    この詩誌は十八人の詩人の詩、十九篇、その内の七人の詩人がエッセイを書いてい

彼岸花、石亀。

夏のさなかでも いっぱい ごはんを食べていた イシガメさん 九月のなかばから ずいぶん 少食になって 食べ残したごはんが 小さな池の水面に浮かんでいる   彼岸花が咲いていた

残暑、石亀。

日曜日には たいがい 三十二年間 イシガメが住んでいる 我が家の庭の片隅の 小さな池のお掃除をする   カメさんには 衣食住の衣はいらないが 住環境をととのえてあげるのは 彼の長生きのヒケツ それに ボウフラさ

ミンコフスキーの「精神分裂病」

 先日、スウェーデンの作家ストリンドベリが精神分裂病だということで、精神病理学による彼の症状の分析を知るためにビンスワンガーの「妄想」という本を読んだ。その折、現存在分析や現象学ばかりか、そもそも「精神分裂病」に関する私

ビンスワンガーの「妄想」

 著者は、一九六六年二月五日、八十五歳でこの世を去るが、その死の前年、この論文を発表している。    「妄想」 ビンスワンガー著 宮本忠雄・関忠盛共訳 みすず書房 2001年6月20日新装第一刷  

青春

劣等生だったボクは 勉強がダイキライだった スキナ課目ナンテなかった だから 教室デ ボーダイなムダをツブス ただじっとオスワリシテル それが ボクのセイシュンだった

手紙

川を渡っていた 舟に乗っていたのか 川面を歩いていたのか わからなかった 手紙を届けようと思った

夏の終わり

            ー我が家の玄関先から空を仰いで   目の前の浮かぶ 雲が 好きだ その背景にある 青空も 好きだ その前景にある 我が家も 大好きだ

後藤光治の詩集「吹毛井」

 著者の「あとがき」によれば、書名の「吹毛井」とは著者の故郷、生まれ育った集落の地名だった。ちなみに、「吹毛井」は、「フケイ」と読む。この詩集に発表された詩作品の大半は、吹毛井を舞台にした著者の少年時代の小宇宙を構成して

後藤光治個人詩誌「アビラ」7号を読む。

 よく「心の世界」というが、いったいこれは何を指示しているのだろうか? 人間にだけ特有な現象なのか? それとも宇宙に無質量で偏在する或る本体が、他の生命体よりも人間という類にことさら強く作用した一現象なのだろうか? 物体

鍋谷末久美の「私、ただいま透析中」

 おそらく著者がこの本を書く最初のスタートラインに立ったのは、平成十八年に出版された読書会「若葉」の創作文集に、私は未読ではあるが、「裸足になった私」という作品を発表したからだろう。  この作品の中で、著者はそれまでひた

詩誌「オリオン」37号を読む。

 東川さんから詩誌が送られてきた。    「オリオン」37号 松川紀代・東川絹子編集 2021年8月15日発行    まず、松川紀代の詩作品は五篇。その内、「椿」、「午睡」、「魚の目」、「あと始末」の

ウオリス・バッジの「世界最古の原典 エジプト死者の書」

 この本は翻訳者によると、ウオリス・バッジの「エジプトの死者の書」のうちの最大の特色である「死者のあの世での生活ぶりを描いた部分だけを抜粋し」(本書243頁)、編集したものである。    「世界最古の原典 エジ

スウェーデンボルグの「霊界日記」

 最近、再読する本が多い。しかし、再読するにはそれなりの理由があった。    「霊界日記」 スウェーデンボルグ著 高橋和夫訳編 角川文庫 平成十年六月二十五日初版    この本をもう一度読んでみようと

カアカア、お待ちかね!

 今朝七時過ぎ、南に面したウッドデッキ側のガラス戸越しにボクは見た、ウッドフェンスに立って懸命に鳴いているカアカアの姿。きのう、久しぶりにやって来たカアカアが、朝早くご挨拶。きょうも、来てくれた! キャットフードの容器を

カアカアが、また、やって来た!

 六月の末から姿を見せなかったカアカアが、また、やって来た!  今朝、町内のゴミステーションに生ゴミを出して帰ってくると、我が家のウッドフェン スに、いた!  二ヶ月くらい見かけなくてトテモ心配していたけど、おかわりはな

ヤスパースの「哲学入門」

 この本は一九四九年秋、著者六十六歳の時、バーゼル放送局で全十二回にわたって放送されたラジオ講演を一冊の本にしたものである。    「哲学入門」 ヤスパース著 草薙正夫訳 新潮文庫 昭和40年9月10日18刷

脳が崩れる

このところ フラフラする感覚がある ずっと続いている きっと 頭蓋の中で 脳が揺れているのだろう いずれ 崩れる

ヤスパースの「ストリンドベルクとファン・ゴッホ」

 このところストリンドベリの作品を少し読んでいるので、さらに一歩進んで、我が家の二階の本箱からこの本を手にして、階段を降り、いつもの指定席、ダイニングテーブルの東南端に座った。頭の右側、東窓の飾り棚には、北から南に向かっ

ストリンドベルクの「父」再読

 どこに置いてしまったのか、ここ数日間、一階と二階にある本箱をシラミツブシに探した。最近、この作家の作品を読んでいるので、どうしてもこの作品も読んでおきたかった。薄くて古くてテーブルに放り投げたら崩れそうな半ば解体した文

ストリンドベルグの「歴史の縮図」

 ストリンドベリは晩年、神秘主義者になった、そう言われている。この本は、一九〇五年、五十六歳の時に書かれていて、その六年後に彼はこの世を去っているので、晩年の神秘主義の書の代表作と言っていいだろう。    「歴

「リヴィエール177号」を読む。

 永井ますみさんから詩誌が贈られてきた。    「リヴィエール177号」 発行所 正岡洋夫 2021年7月15日発行    十七名の詩人の作品と、六名の詩人のエッセイで構成されている。  身辺の出来事

脳が休憩を要求する

 不思議な現象だった。原稿を読んではいるが、知覚はしていなかった。目で字面を追ってはいるが、つまり、「あ」は「あ」と認識しているが、脳の外に文字が存在していた。眼球に映像しても、内部までやって来なかった。  この原稿は、

ストリンドベリの「死の舞踏・其他」を読む。

 七月二十三日のブログで私は「痴人の告白」という長編小説の読書感想文を書いた。この作品は昭和三年十一月二十日に新潮社から発行された「世界文学全集 第28巻」に収録されていた。この本には同じ作者の作品で、戯曲が二曲と短編集

ひとりでに出てくるものは

ひとりでに出てくるものは ひとりでに出ていく   まっ青な夏が来た 雲が浮かんでいた   だけど秋が来て 雲ひとつない   帰って欲しいものは 帰って来ない

ストリンドベリの「痴人の告白」

 先日読んだ戯曲「春のめざめ」、「地霊」、「パンドラの箱」の著者ヴェデキントは、一八九一年頃、パリで十五歳年上のスウェーデンの作家ストリンドベリと出会っている。そして、彼はストリンドベリが二度目の離婚をした時の妻、オース

夜明け前の恋

 梅雨明けが来て空が白むのはずいぶん早くなったけれど、まだ未明なのか、黒々とした室内のベッドに寝転んでいる私の脳の上に亡妻「えっちゃん」が生き生きとして動いていた。もちろん、後付けで「脳の上に」という表現をしてみたが、睡