芦屋芸術|芸術誌・現代詩・小説

契約書を食べる

 きょうもリカは不在だった。

 出されたものは、赤茶けた漆塗りのお椀ひとつ。お粥といっても、もう乳白色の汁状で、ご飯の面影は消えていた。すべてのご飯粒が溶解している。きょうの課題は、そんな汁状態の中から、文字を探さなければならなかった。

 

 さらに厄介なのは、探し出した文字を組み合わせて、名前や住所、生年月日などを確定し、契約書を作成する作業をしなければならなかった。最初に言った通り、リカは不在。すべての作業の責任を私一人が負わなければならない。覚えずⅯはしかめっ面をしていた。

 

 作業は難航した。

 

 いったいこんな作業を誰から依頼されたのだろう。

 記憶にはなかった。

 

 だって汁状にねっとりしてしまったお粥から、文字なんて読み取れるのだろうか。解読不能じゃないか。待てよ。文字が刻まれたお粥が存在してるって、私は初耳だ。リカちゃん、依頼者を教えてくれ。こんな仕事、まっぴらごめん、突っ返してやる! 疲労困憊を越えて、Ⅿは泣きべそをかいていた。

 

 そもそも、どうして、こんな赤茶けた漆塗りのお椀が、ダイニングテーブルの上に置いてあるのだろう。ハハン、そうか、だったら、これって、リカが作った夜食なんじゃないか。

 

 箸では無理だった。お匙ですくって、汁状態の契約書をⅯは唇に運んでみた。