密室に閉じ込められているのだろうか。暗くて出口さえ見えなかった。いや、この部屋に机があるのか、椅子があるのか、そればかりか、壁さえどこにあるのかわからなかった。おそらくあなたがたはそんな馬鹿な話があるはずがないじゃないか、いいがげんにしろよ、頭ごなしに否定するかもしれない。だがもう少しだけ時間を割いてこの話に耳を傾けて欲しい。だって、なぜこんな暗闇に放置されている状況がやって来たのか、一切不明のただなかで仰向いたまま、Mはまだ立ち上がることさえ出来なかったから。
全体がゆっくり揺らめいている。ここはきっと羅針盤のない船の船底だ、突然Mの脳の中にそんな言葉が浮かんできた。監禁されている、羅針盤のない船の船底に。
そうじゃない、船底に横たわる前から、俺はずっと監禁されて生きて来たのだ。確かにMという男は生まれてからこのかた、ずっと、誰かに脳を操作され続けていたのは明らかだった。彼の監禁された脳。
さまざまないきさつがあったのは、わかっている。あんなこともあった、こんなこともあった。しかし、何十年もかけて出たり入ったりしてきたいきさつを思い出そうとしても、もはやMの脳に帰って来るのは不可能だった。当たり前じゃないか、すべてが忘却されるのは。
間違いはなかった。ずっと昔から、この船底のように、闇が充満しているばかりだった。どこか行く当てもなかった。違う。それよりも、もっと正直に話せば、自分の意志でどこかへ行くなんて、とても想像もつかなかった。そうだ。出来ることといったら、ただひとつ、闇の中で蹲り続けることだけだった。
これだけはあなたがたにお伝えしておきたい。羅針盤のない船の船底に横たわったまま、この闇の本は閉じられていくのだろうか。断言するのははばかられるが、おそらく、そうに違いあるまい。この闇の本の何頁目かにMをしおりのように挟み込んだまま。