芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

閉門

 ずっと門を開いていた。さまざまなものが出たり入ったりした。人ばかりではなかった。猫や犬、カやハエやゴキブリまで、出たり入ったりしていた。そんな明け暮れを彼は「人生」と呼んでいた。

 しかし、出て行ったきり、二度と帰ってこないケースがあった。いや、同じゴキブリでもいつの日か帰って来なくなっているはずだが、彼は意に介さなかった。というよりそんなことを考えもしなかった。今回、痛切に彼はそれを知った。それはひとりの女だった。長い間、かれこれ四十年余りにもなるか、彼女は門の内側で暮らしていた。が、ある日突然出て行ったきり、もう十年の歳月が流れていた。

 こんなこともあるのだ、彼はようやくわかり始めて来た。それなら、俺がこの門を出て、二度と帰って来なくならないうちに、きょうからこの門を閉じておこう。