芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

中継点から

 今頃になってこんな話になってしまった。だったらこの先どうなってしまうのか。私の頭は混乱して荒野をさまよっている。

 確かに誰にも中継点があるのはわかっていた。その中継点で様々な会話が交わされている。言うまでもないが、他愛ない会話もあれば、のっぴきならない相談事や、もうほとんど取り返しのつかない話まで出てきて、そんな時、何が何やら、困惑して頭を抱え込んでしまう。

 八年余り前に亡くなった妻がこんなことを言い出した。……あなたの水泳の結果が出たわ。平泳ぎが百点、でもクロールは六十点よ。平泳ぎはまあこれでいいとして、クロールの六十点はないわよ。これって水泳のスの字も知らないあのM 先生が採点したの。彼に抗議したよ。再テストが決まって、立ち会いはMじゃなく若手のWよ。 ねえ、一緒に行こうよ。一緒に行って屈辱を晴らそうよ。いい。わたしは平泳ぎが百十点。クロールが百点。ちなみに、こないだのウクライナ大会の優勝者は二百点よ。

 高台から見下ろすと、まだあのレストランが立っていた。昔とほとんど変わりはないが、少し薄汚れてくたびれている様子だった。このレストランの奥には室内プールが設置されている。そのプールでクロールの再テストが実施されるのだ。しかし奇妙な話だが、私は一人で露天風呂に入っていた。妻や試験官Wの姿は影も形もない。さらに不思議なことに、私は服を着たまま風呂につかっているのだった。やはりもう我慢ならずに中継点が騒ぎ出した。許容量を超えて会話が破壊されたのか。ノイズが上下左右で混乱し、キーンカーン、コーンキーン、甲高いソプラノが頭の中で氾濫していた。