芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

長老

河のほとりに立ち

長老が

杖にて河面を打てば

水中から

おおぜいの土左衛門が

這いずり出した

 

  ◆

 

河原にて

長老は天幕を張り

幾千の歳月を数え

幾万の土の器を造った

汝生きよ 天に向かって祈り

髪振り乱し

杖で地を打ち続けたが

土の器は微動だにしない

そのかたわらを

土左衛門の行列が歩み去り

それを追うように

天幕が 柱が 妻が 子供が 寝台が 鍋が 茶碗が

駆け足で 去った

 

  ◆

 

ふたたび長老の杖は

幾千の歳月を打つ 地を打ちつける

犬を

砂を

群衆の背中を打つ

霰を

雹を

雨 風

霧を打つ 霧の中で交わされた約束事を打ち砕く

出会いと

別離を

街角を

空を

夢を

門を打つ

妻を

子供を

愛を 打ちのめす

打ちのめす

とことん 打ちのめす

畳を

座布団を

卓袱台を

箸を 茶碗を 飯を それを食っている長老を