芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

松岡祥男の「吉本隆明さんの笑顔」

 この記録は、吉本隆明が書いた文章の熱心な一読者が、いつの間にか、読者でありながら、読者を超えて、吉本隆明を中心に据えたさまざまな交流や、あるいは、批判、反批判が入り乱れ、それらすべてがひとつになって一輪の花が咲くように、言葉の花束に成長して現出したものである。

 

 「吉本隆明の笑顔」吉本隆明資料集・別冊2 松岡祥男著 猫々堂 2019年12月13日発行

 

 本書はおおぜいの登場人物で構成されているのだが、彼等すべてのものの見方・考え方・感じ方の原点に吉本隆明の姿が立っていて、彼等すべてが正邪善悪を問わず、さまざまな言葉を紡いで、その姿に応答している。ある意味でこの本はそういった応答劇を集成したものだ、こうした印象を、私は覚えた。

 ところで、善導という人が著わした「散善義」という書物の中に、「就人立信」という言葉があった。読み下せば、「人について信を立つ」、まさに、吉本隆明と松岡祥男の関係は、一言で言えば、「就人立信」、こう表現されてしかるべきかも知れない。

 

「吉本さんが講演で高知に来られた機会をとらえて、囲む会を開き、自宅にお招きしました。それがすべての始まりだったような気がします」(本書267頁)