芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

津田文子の詩集「夢のような月日が流れて」

 これは津田さんの第三詩集だが、もうずいぶん昔に、第二詩集を読んでいる。このたび出版された第三詩集を読んでいて、ふと懐かしく、津田さんの第二詩集を書棚から抜き出した。

 

 「きょうが逃げていくようです」 津田文子著 編集工房ノア 1989年12月25日

 

 猫のお話を中心にして、さまざまな小話やエピソードを二十五篇の詩作品に仕上げている。ちょっと思わせぶりな語り口で言葉が小川のように流れ出て、どこかかすかなおかしみと、どこかかすかな哀愁が漂ってくる。そのおかしみと哀愁は、この第三詩集で完成されたといっていい。

 

 「夢のような月日が流れて」 津田文子著 編集工房ノア 2019年7月1日

 

 三十年近い歳月が流れた。だが、やはりかつてそうであったように、津田さんはいたずらに抽象的な世界に深入りせず、具体的な出来事をネタにして、あるいはまた、具体的な作り話をネタにして、ちょっとした小話を艶やかに語る。そして、あのかすかなおかしみとかすかな哀しみがいよいよ透明な小川となってひたひた漂い流れ出る。このおかしみと哀しみの小川の源流にはおそらく、津田さんの青春の挫折のようなもの、じっと秘められた諦念のようなものがあって、そこから現在まで流れ続けているのではないだろうか。津田流の巧みな語り口が完成された詩集である。