芦屋芸術|芸術誌・現代詩・小説

女ではなかった

 私は毎日、夜の散歩をする。もう七十も超えて少しは足腰の健康のために留意しなければ、そういった主旨で散歩しているのではない。だって、私は脳の中を散歩するんだから。

 

 今夜は三人の男と会った。一度もあったことがない連中だった。いや、会っていたのかもしれない。けれど、見覚えのない、記憶に残っていない顔だった。もし会っているとしても、ずいぶん昔の話しだったろう。

 

 待てよ。顔といっても、それだけじゃない、体全体がはっきりしない。姿、形はそれなりに人間じゃないかと確認はできるのだが。三人いることはいる。そうとしか言いようはない。それにしても、影だけが、ふるりんふるりん、ふるふるりん、こんな状態で移動していて、それぞれ個別の特徴なんてなかった。ああ、わかった。そうだ。だから見覚えがなかったんだ。より正確に言うなら、三体の黒と灰色の混合物が波打ちながら、私の左右、背後に寄りそって散歩していたのだった。

 

 間違いない。部屋に入った。かなり広くて壁が見えないが。

 これから競技が始まるらしい。卓球だろうか。それとも、将棋かもしれない。とにかく、三体の影の中の一体からこんな音が聞こえてきた。

 

 憶えているだろ。新星20号って。よくはやったネ。ずいぶん昔の話だが。それに連合24号、25号もよかったネ。確かそんな名前だったが、どうだろう。違っているかね。あれだよ。ロボットなのに、生命体だった。あの究極の愛の生命体。

 

私 ちょっと待って。半世紀以上、昔の話だろ。スマホで調べたら、すぐわかると思うから。

 

 ここで夜の散歩は終わった。街路もあの部屋も消えた。午前四時。ベッドに横たわって、私は天井を見つめていた。

 

 それにしても不思議な話ではないか。三体の影をなぜ私は女ではなく男だと認識したのだろう。ひょっとしたら、私は愛を喪った世界を毎晩散歩しているのだろうか。