芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

系図を喪失した時代

すてむvol49号(2011年3月25日発行)の中で、藤井章子の詩「系図」を読んでみる。

おそらく彼女は、深夜、蒲団にあおむけに寝転がって、ひそかな気配に眠れない夜があるに違いない。それは後方の闇からやってきて、前方の闇へ消えていく系図であろう。

彼女の「系図」を読んで不思議に思うのだが、父も母も、まして祖父・祖母あるいはその過去へ辿る具象された道は閉ざされている。ただ過去の系図は「ヘビの尾のように長いままで同じ血の色の陰翳」に過ぎない。深夜に夢から目覚めた時、そっと寄り添ってくる兄弟姉妹も彼女の血の色の系図に浮かぶ束の間の幻影であろう。確かにこの詩がユーモアを交えて語っている通り、現代は系図を喪失してしまった時代だと言っていい。

系図といえば、この号の「すてむらんだむ」43頁に書かれた藤井章子の「父の原稿」を併せて読んで欲しい。小説家を目指していた彼女の父は「メレヨン守備隊」という名のもとに「ニューカレドニア諸島」の小島で三十一歳の若さで「戦病死」している。