芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

永井隆の「この子を残して」

 この書は、長崎の原子爆弾で妻を失い、自らも被爆して余命いくばくもない父が、疎開させていて被爆しなかった二人の子供の戦災孤児としての行く末を危ぶみ、筆をとったものである。将来、子供たちが成長した時、父の真実の思いを知ってもらうために、原子病でほとんど寝たきりの状態でこの書は成立した。

 

 「この子を残して」 著者永井隆 サンパウロ 2010年7月20日初版17刷

  (この本は1948年4月に発表されたものの復刻版である)

 

 父親の切実な思いがにじみでて、心を打たれる。わざわざボクの解説の用はない。ただ、ボクのような無宗教の人間には、この著者の言う「神」、あるいは「神の摂理」などが、理解出来ない。例えば、米軍が原子爆弾を長崎に落としたことは「神の摂理」であり、浦上のカトリック教徒八千人の爆死は、「殉教」だった、こういう考え方はきっぱり否定しておく。この著者の考え方からすればカトリックが正しい宗教で、この宗教の信者は天国に行き、それ以外の宗教の信者、また、ボクのような無宗教のものは、地獄落ちだ、ということである。長崎の原爆によって爆死したカトリックの信者以外の人々は、今、地獄に存在するのだろうか? 広島の原爆で爆死した人々は? そもそも、自分の「信仰」、自分の「力」、自分の「悟り」、自分の「知識」などを過大視あるいは絶対視するのは、いかがなものだろう?