芦屋芸術|芸術誌・現代詩・小説

だが、それは

 超人的に生きねばならない。深夜、Ⅿはそういう結論に達した。だけど、人を超えるっていうことは、機械になることだっけ。そうじゃないだろ。菜の花畑になったり、イカや鯛やマグロになって、寿司屋に並んだりして。ニンゲンと大トロとどっちがオイシイ。そんな馬鹿な。だったら。超人的ってどういうことなんだろう?

 Ⅿは沈思黙考した。それってこうじゃない。普通じゃなく、ちょっと特別なニンゲンになることじゃ。きっとそうだと思う、Ⅿは考え続けた。特別って、だったら、ニンゲンじゃないニンゲンにならなきゃ。オレは男だけど、たまには女になって恋愛してみたり。それとも、イヤな奴が我が家に遊びに来たらゴキブリになって奴の背中を行ったり来たり、どうだい、何千匹に分裂して全身を這いずり回って、ゴキブリに覆われた首すじと頭から悲鳴を上げて玄関を飛び出していく奴の後ろ姿に、サヨナラ、また来てね、バタンとドアを閉める、そんな異次元を演出出来たら特別なニンゲンじゃないだろうか。きっと、そうだろ。

 

 そうじゃん。特別って、不可能を生きるニンゲンのことじゃん。

 待てよ。ニンゲンであって、ニンゲンでない時間を生きるって、ほんとのところ、いったいどうすればいい? もしかして、ダンテみたいに地獄や天国を旅行することじゃない、この世から遠く離れて。

 だったら、ボクも超人になりたい、リカに会いたい!

 

 ヨシッ‼ Mは決意した。まず手始めに、十二年前に他界したリカを呼び戻し、もう一度同じ屋根の下で暮らすことにした。これって、異次元を、不可能な世界を生きる超人じゃあないだろうか。