芦屋芸術|芸術誌・現代詩・小説

やはり、数えることが出来なかった。

 空を飛ぶ夢を見る人はこの世ではたくさんいる、金曜日の夜、Mはそんな話を耳にした。ついさっき、別れたけど。例のスナックでウイスキーのグラスを傾けながらリカちゃんから。

 

 ベッドに横になってもなかなか寝付けず、天井を見ながら思いに耽った。……それなら、夢を見るたくさんの人たちの頭にはみんな同じ「空」が浮かんでいるのだろうか。みんな「空」という言葉を使っているが、同じ中身の「空」だろうか。それとも同じ言葉だが、それぞれ中身は異なった「空」だろうか。もしそれぞれ異なった中身の「空」だったら、もしかして、この世には無数の「空」があるかも。

 

 もう夜は明けてしまった。土曜日。けれどMは終日、この問題を追及した。彼は熟考した。……夢の中ではきっと、無数の「空」が存在しているに違いない。ああ、そうだ。これって当たり前じゃん。各人はそれぞれ異なった「夢」を持っている。そうじゃん。いままでこの世に存在してきた、また、いまここに存在している、あるいは、これから存在するであろう無数の人の頭の中は、夜になると寝床に横たわってそれぞれ各人違った「夢」を浮かべてきた、無数の違った「空」の下で。

 

 一瞬、Mは無数の「愛」を発見した。

 

 無数の「人」が、無数の「夢」を「空」を、そして無数の「愛」を持って、Mの頭の中に出てきた。助けて、リカちゃん! オレは発狂する‼