最近、エロティシズムを主題にした作品をあれこれ読んでいるが、この本もその一冊だった。
「エマニエル夫人」 エマニエル・アルサン著 川北祐三訳 二見書房 昭和50年2月20日18版
映画で大ヒットしたから、本まで手にした方は多々あると思う。
この本の作者エマニエル・アルサンはペンネームだが、小説の舞台となったタイのバンコク生まれ、タイ人だった。十六歳の時、フランスの外交官と結婚している。こんな話を耳にすると、何となく著者の実人生からこの小説の香りが漂ってくる気がしないでもないだろうか。戦後間もないバンコクという街の表現の深さを含めて。
一九三二年生まれの著者がこの作品を発表したのが一九六三年だから、三一歳だった。随所にさまざまな作家や哲学者などの引用文をちりばめているので、相当の読書家であり、また、努力家だったろう。おそらく小説に登場するエマニエルの如く、どんどん自分の皮を脱ぎ捨てて日々跳躍せんとする人格だったろう。
従って、この著者が作品の中で展開するエロス論は、一言で表現すると、エロティシズムとは超越的反自然の姿勢でこの世を生き抜いていく精神世界だった。そこに言いがたい快楽が発生するのだった。ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」の引用もあるが、すなわち、常識や日常世界にとどまらず、非現実非日常世界へ向かって常に乗り越えんとする者だった。言い換えれば、常に新奇であることの喜び、それを人間の根源である性愛の中で実現せんとした作品だった。