そうだろうと思っていた
そんなところだろうと
だって 実際
消えていく
家に住んでいた小さな虫でさえ
この世から消えていく
なぜって
これ以上この世で生きているのが
辛いから
日照り
猛暑
外部は真っ赤っか
でも
こころ 真っ黒
最低 だから
あちらこちらで酒がささやきかけてきた
この世が懐かしいということは
終わりの合図なのか
テーブルに
ワイングラスだけが
待っていた
酔っぱらった
頭の中は
一枚の無数模様の織物
淫らな交接曲
あなたを喪ってから
昼は消えていた
しかしそれは夜でもなかった
より正確に言えば
未明にだけ出てくるものだった
わたしだけの
誰のものでもない
ただひとつの
無数模様の織物
織物から こんな声がした
七十を超えてから
ふたりだけで
三十代を思い出しながら
もう一度 六甲の山道を
歩こうね
あの約束は破れたまま
解がいくつもある場合があることをわたしは知らないことはない
けれど この場合
何度問いかけてみても
常に同一の解が返ってきた
彼女は死んでいた
そのうち 骨も消える