芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

マゾッホの「毛皮を着たヴィーナス」再読

 この著者の作品は、「残酷な女たち」という中短編集を読みその読書感想文を去年の9月5日の芦屋芸術のブログに投稿している。興味のある方は参考にして欲しい。

 

 「毛皮を着たビーナス」 ザッヘル・マゾッホ著 種村季弘訳 河出文庫 昭和58年4月4日発行

 

 この本は以前、私が三十代の時に読んでいる。言うまでもなく文学愛好家なら必読といっていいのではないか。また、この作品の特異性によって、マゾヒズムという言葉が発生したのは周知のとおりである。こんな妄想狂に近い作品を1871年に発表し、驚くことには、この妄想を著者は実生活においても実践している。切実な話ではないか。つまり、マゾッホにあっては妄想と現実が一枚に重なりあっているわけであって、だからこそ、作品に描かれたスサマジイ性衝動の具象性が読者に強烈に迫って来るのも、むべなるかな、だった。

 この作品について、あれこれ書いてみたいと思ったけれど、よそうと思う。サディズムの世界とマゾヒズムの世界の根底が同一界であることが眼前にくっきり浮かんでくる。神の愛ではなく、抽象ではなく、生身の愛、性愛の深淵について。