こんな詩集を読んだ。
「その言葉はゴーヤのように」 佐川亜紀著 土曜美術社出版販売 2024年9月1日発行
四章で構成されていて、(Ⅰ)六篇、(Ⅱ)四篇、(Ⅲ)九篇、(Ⅳ)六篇、最後に「対話」という詩を配置して全篇を締めくくり、合計二十六篇の詩が収録されている。
興味深く読んだ。二読、三読した。私が興味を持った中心は、この詩集が歴史や社会状況に応答する言葉(詩)の存在とその働きを出来得る限りわかりやすく、かつ正確に表現しようと真摯に取り組んでいる構えに共鳴したからだった。著者は「あとがき」で簡潔にこう書いている。大切なところなので以下に引用する。
「現代文明による破壊、戦争、女性への抑圧、民衆への弾圧は悲惨さを増しています。
苦難がのしかかる沖縄、朝鮮半島、アジアの言葉から多くの教えを受けました。
詩は非力かもしれませんが、言語は異なっても、少しでも世界につながる可能性に驚かされ、励まされます。」(本書110頁6~8行目)
こうした基本姿勢はこの詩集に収められた詩群の全ての根底に流れている、そういって決して過言ではないだろう。
著者は詩の源を「人のおぞましい欲望をこえた/漆黒の宇宙の宝石」(「空の瞳」最終二行、本書60頁)と呼んでいるが、この「宇宙の宝石」を原点にしてこの世に現れたさまざまな姿・形を言葉で丁寧に一枚の詩へ織り上げていく。
詩、この「宇宙の宝石」によって、人の心は横に大きく拡がっていく。例えば、作品「女たちの言葉は水路」(本書18~21頁)を読んでいただきたい。そして、出来るならネットでアフガニスタンの亡命女性詩人・ソマイア・ラミシュを調べて欲しい。特に、ソマイアが来日した時の記事「<シンポジュウム>ソマイア・ラミシュvs日本の詩人たち」を読んで欲しい。このシンポジュウムには著者もパネリストとして参加している。「宇宙の宝石」の具象化とはこういうことなんだ、きっと読者は気づくに違いないと思う。
最後に、少し長い引用にはなるが、「宇宙の宝石」、つまり「詩」のことだが、著者の思いを以下に掲げてこの拙文の筆を擱く。
言葉の中に地球の時間を
ミジンコの重さを ツツジの闘いを
かくされた民の歴史を
プラスチックの破片のように漂うわたしの言葉に
こめることができるだろうか(作品「沈む島 沈む言葉」最終五行、本書72頁)
詩人は通訳者
言語が通じなくても共通語を求める
地と天をつなぐ宇宙の会話
未来の声 過去の木霊
樹のうた 川のいのり
破壊された街のうめき
無人の村の風音
最も伝えたいことを
心から心へ
世界の軍事用語を越えて(作品「通訳者」最終十行、本書104頁)