芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ある愛の果てに

 吸うものがいる。というか、それはずっと吸い続けている。唇はあるが、顔はない。だいたいにおいて頭部が存在しない。もちろん胴体や手足なんてどこにも見当たらない。

 唇だけがあって、穴はある。直径五センチ余りだが、奥は深そうだ。両手の人差指を引っかけて、唇を開けて覗いてみたが、その瞬間、彼の顔は両眼だけになってしまった。そのふたつだけを残して、彼の全身は吸われて消えた。

 唇とふたつの目玉だけが虚空に浮かんでいる。