時代はすっかり変わってしまった。冬が台風シーズンと呼ばれていた。
まだ十年しかたっていないのに、十日に一度は洪水で、水が引くまでの三日間、トイレの便器も水没。世界の三分の二の地域は水没便所だった。紙はいらなかった。出せば、浮いていた。
なんてことだ! まったくもって恐ろしいことだ。だから世界の三分の二の地域では、洪水が去るまでの三日間、水中で愛しあった。水中愛。二十年後には、背中に鱗まで発生した。そして、これを生命の進化というのだろうか、三十年後には、両手・両足の指間には水掻きが発達した。人類が両生類へと転化する、政府・マスコミは警鐘を鳴らした。もうすぐ地球全体が水没する。危険だ! 人類は四つ足になるかもしれない!
それにしても、今頃彼はほとんど廃物になった電車に乗っていったいどこへ行くんだろう? リュックに缶ビールをいっぱい詰め込んで。一車両だけで何とか走っている誰もいない電車。いや、浮かんでいる無人電車。水流にまかせてこの世を漂っている……。
ははん。お目当ては彼女だな。スナック「エデン」で乾杯するために。どこか蛇に近い姿だった。たがいの鱗をなめあって、ヌルヌルとぐろを巻きあって体を寄せあい、水没したカウンターの上でぴくぴくケイレンしながら。