芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

酒を捨てる(続・続・続)

 酒から自由になれたと思う。事のおこりは先に書いたが、自戒の意味で再書する。

 今年の一月十九日、亡くなったワイフの月命日の夜、夢の中で、「とんちゃん、お酒、止めな」、彼女はそう告げた。翌二十日からほぼ二ヶ月間、ボクは家では一滴たりと酒を口にふくんでもいない。

 ワイフが存命中から酒は毎日飲んでいた。しかし、確かに彼女を失って酒量は増え、昼間から就眠まで、飲み続けて、気がつけば、二年余りたっていた。まだボクの中で生きている彼女は、とてもハラハラして、たまらず、夢の中に出た。

 毎日酒を飲みながら、彼女はボクの化身仏だと思うようにボクはなっていた。若い頃、自ら望んだ赤貧の生活を彼女はじっと支え続けてくれた。おそらく彼女がいなかったらボクは破滅していたに違いない。

 また、愛犬ジャックも化身仏だったろう。ジャックとワイフとボク、この三人で仲むつまじく、一日一日楽しく、十一年余りを過ごした。そして、ワイフが亡くなった後、頭が狂っているボクを二年余り支え、昨年の十月にボクに抱かれながらジャックは永眠した。

 酒を飲みながら、さらに夢想した。ワイフもジャックもボクも、海がとても好きだった。夏が来ると、毎日近くの海岸で、ワイフが投げたボールを追って夢中になって泳いでいるジャックの姿が、ボクの酔眼に浮かんでいる。

 おそらく、過去世、ボクラは海鳥で、無人島に住んでいたのだろう。もちろん、ジャックはワイフとボクの子供だった。愛欲は深い。この世に流転して、ボクラは再会した。

 ところで、こんなにも楽しい夢をかなえてくれるお酒を、ボクは捨てた。